扉をたたく人

名脇役として長年俳優生活を送ってきたリチャード・ジェンキンスが
アカデミー賞主演男優賞にノミネートされて話題になったヒューマンドラマです。
アラブ系青年と初老の教授が楽しそうにジャンベ（アフリカン・ドラム）をたたいている予告編を観て
ちょっと気になっていました。
物語はそんな楽しそうなシーンから一転、切ない展開へと続いていました。

コネティカットにある大学教授のウォルター・ヴェイルは今日も淡々と授業をこなし、
教授室で独りぼんやりと時間を過ごしていた。
しばらく前に妻を亡くしてからはほとんど笑顔を見せずに、いつも心を閉ざしていた。
そんな無為な日々を送っていたウォルターは、大学からニューヨークの学会への出席を指示される。
ウォルターは多忙を理由に断ろうとしたが、そんな理由では許されるはずも無い。
仕方なくニューヨークへ出てきた彼は25年前に購入して現在はほとんど使用していないアパートへ来た。
だが、そこには何故か見知らぬ若い移民のカップルが住み込んでいた…

孤独で心を閉ざしていた初老の教授の心はジャンベの音色と共に開かれ、
そして移民の青年の運命と共に、哀しみと怒りに満ちていきました。

ウォルターは孤独で偏屈で人付き合いのとても悪い不器用な人間です。
ほとんど惰性のように生きていて、生きる目的も希望も持っていません。
そんなウォルターは友人に騙されて彼のアパートに住み込んでしまった移民の青年タレクと出会います。

シリア出身の青年タレクはジャンベを演奏するミュージシャンです。
妻がピアニストだったウォルターはクラシック音楽には詳しかったのですが、
他のジャンルには全く馴染みがありません。
でも、タレクが奏でるジャンベの音を聞いているうちにウォルターの身体はリズムを取り始め、
やがて、少しずつ強くなるジャンベへの興味と共にタレクとも心を通わせ始めます。
ジャンベを奏でる楽しさに、久々に笑顔を取り戻したウォルターでしたが、
タレクには911以降に激変してしまったアメリカの厳しい現実が待っていました。

それにしても、リチャード・ジェンキンスの何とも冴えない風貌と表情は味わい深いですね。
言葉が少ないだけに表情で多くのものを伝えていかなければならない役なのですけど
彼の佇まいと視線とあの微妙な笑顔は、彼の心の動きを克明に伝えてくれました。
とても地味ですけど、アカデミー賞も納得の演技でした。
また、彼に深い感情を呼び起こすタレクの母モーナを演じた
ヒアム・アッバスの控えめな演技も良かったです。

日本が移民に厳しい国だとは感じていましたが、もっと開かれていると思っていたアメリカでも
現在では移民にとても厳しい国になっていることを改めて思い知らされました。
せめて、そんな試練に立たされた人々たちも
幸せをつかめる日が来るといいなあと心から願った１本です。



監督：トム・マッカーシー　出演：リチャード・ジェンキンス　ヒアム・アッバス　ハーズ・スレイマン　ダナイ・グリラ
2007年　アメリカ　原題：The Visitor
（20090708）

コメント 17

これ観たいと思っていました。
じっくり観れそうな良い映画のようですね～。
音楽も気になります。
by 江戸うっどスキー (2009-07-09 06:51) 

xml_xslさんへ
こんにちは。niceをありがとうございました！
by non_0101 (2009-07-09 12:29) 

takemoviesさんへ
こんにちは。niceをありがとうございました！
by non_0101 (2009-07-09 12:30) 

江戸うっどスキーさんへ
こんにちは。nice＆コメントをありがとうございました！
見終わった後に考えさせられるようないい映画でした～
音楽も良かったです。
主人公と一緒にリズムに乗ってみたくなります。
あのジャンベを叩いてみたくなりました☆
by non_0101 (2009-07-09 12:34) 

移民をテーマにしてるのですね。「ジャンベ」と聞いて最初はどんな楽器か分かりませんでした。予告編を観て分かりました。機会あれば観たいですね。
by たいちさん (2009-07-09 21:20) 

タレクの笑顔がとても素敵でした。
それだけに彼が送還されてしまう事実が切ないです。
9.11以降厳しくなった、それがいけないことかと問われたら、当然でしょうねと答えるしかないです。しかしそれでもなお釈然としない、納得できないのが人としての情の部分ですよね。
情でルールを運用する訳に行かないことも百も承知です。だからこそウォルターの「私たちは何て無力なんだ！」という言葉が身に染みました。
by KLY (2009-07-10 00:26) 

たいちさんへ
こんばんは。nice＆コメントをありがとうございました！
切ない分、深く考えさせられる作品でした。
機会がありましたら、ぜひチャレンジしてみてくださいね(^^)
by non_0101 (2009-07-10 20:02) 

KLYさんへ
こんばんは。コメント＆TBをありがとうございました！
それまでのウォルターが地味で声も小さい人物だっただけに、
「私たちは何て無力なんだ！」という叫びは本当に胸を打ちました(T_T)
タレクの笑顔がいつしかN.Y.で見られる日が来ることを願ってしまいました☆
by non_0101 (2009-07-10 20:07) 

siroyagiさんへ
こんばんは。niceをありがとうございました！
by non_0101 (2009-07-11 23:20) 

かずもんさんへ
こんばんは。niceをありがとうございました！
by non_0101 (2009-07-11 23:20) 

shinさんへ
こんにちは。niceをありがとうございました！
by non_0101 (2009-07-14 06:24) 

yuki999さんへ
こんにちは。niceをありがとうございました！
by non_0101 (2009-07-14 06:25) 

U3さんへ
こんにちは。niceをありがとうございました！
by non_0101 (2009-07-14 06:25) 

私も昨日、やっと見てきました。
ドラマなど見てると、やたら不法移民の人はたくさんいて
小さなことでも警察沙汰になると困ると言ってましたが
この映画を見て、こりゃ困るなーと分かりました。
プリズンには庭もないといってたけど
公園での生き生きとしてたシーンと拘置所のシーンと
見てて切なくなりました。
私たちはなんて無力なんだ!!
by コッスン (2009-07-25 22:33) 

コッスンさんへ
こんにちは。nice＆コメントをありがとうございました！
自由が欲しいという切実さが伝わってきましたね。
あんなに良い若者なのにこんなことになってしまう状況を見ると、
アメリカは何か大きなものを失ってしまったのだなと感じました。
「私たちはなんて無力なんだ!!」という台詞は本当に切なかったです☆
by non_0101 (2009-07-26 08:02) 

こんばんは＾＾
心に沁みる映画でしたね。
同じことの繰り返しだったウォルターの毎日に
新しい息吹を吹き込んだ出会い。
人との出会いがくれる大切なものを感じました。
最後はせつなかったですね。

by てくてく (2010-04-27 22:46) 

てくてくさんへ
こんにちは。nice＆コメントをありがとうございました！
本当に心に沁みましたね～
ウォルターがどんどん生き生きとした表情になってきたのを嬉しく観ていたので
あの結末は本当にやるせなかったです(T_T)
by non_0101 (2010-04-28 07:17)