ゆっくりと人生が終わっていきました。
作家である父とその年老いた母を中心に、家族の姿を描いた作品です。
物語は父の死から始まります。
作家・伊上洪作(役所広司)は父(三國連太郎)の容態が悪化したと聞いて久々に実家に行きます。
その時に会った母(樹木希林)はちょっと記憶が曖昧になっているけれど元気そうでした。
洪作が帰宅して間も無く、父の死の連絡が入ります。
葬儀は滞りなく終わり、母はその頃から次第に記憶を混乱させ始めました。
洪作は母に対して、自分は捨てられたという想いを抱えて生きています。
子供の頃、父が台湾へ異動になった際、母は妹の二人を連れて行き、
長男の自分だけが日本に居る親戚に預けられたのです。
その時の恨みは心の中に澱のように残ったままでした。
でも、記憶を無くしていく母を世話しているうちに、洪作は母と向きあえるようになります。
もはや洪作が誰かも分からない母に恨みを持っていても仕方ないと
大らかな心でいられるようになったのです。
そしてある日、彼はとうとう母に、あなたは自分の子供を置き去りにしたのですよねと問いかけます。
その言葉に母は意外な反応を見せました。
それにしても、心に残る作品でした。
途中の台詞の中で「東京物語」が登場したように、この物語もじっくりと家族の姿を描いています。
壊れていく母。その母を支えようとする長男と姉妹。そして孫の琴子(宮崎あおい)。
母の言動に振り回されながらも、家族はそれぞれに母を受け止めながら暮らしていきます。
その肉親の情に、今では薄れてしまった家族の絆を改めて思い知らされました。
また、実際に井上靖が暮らしていた自宅などを使用して撮影されたということで、
本当にここで名作が生まれたのだなとちょっとワクワクしながら観ていました。
実家のある伊豆や軽井沢の山の風景も素晴らしくて、こんなに美しい日本を観られて嬉しかったです。
そして、何と言っても役者陣の演技の素晴らしさには感動でした。
主演の役所さんや病床の父を演じた三國連太郎さんをはじめ、出演者がみんな凄いのです。
息の合ったテンポの良い会話には思わず笑ってしまうことも多かったです。
中でも母役の樹木希林さんの演技は、もう次元を超えたような気がしました。
舞台挨拶でサッチャーを越えるみたいな冗談を言っていましたけど、
作品を観てその通りだと納得してしまいました(^^ゞ
観終った時、しばらく胸がいっぱいになっていました。
この映画を観ることができて、そして理解できる自分であって良かったなと感じた1本です。
監督:原田眞人 出演:役所広司 樹木希林 宮崎あおい キムラ緑子 南果歩 赤間麻里子 ミムラ 菊池亜希子 三浦貴大 三國連太郎
2012年 日本
(20120319)
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公式サイトはこちらへ http://www.wagahaha.jp/追伸
この映画は試写会で観ました。公開は4月28日以降の予定です。