『
その扉をたたく音』 瀬尾まいこ/著 集英社
親の仕送りでのんびりと過ごしていた青年が、老人ホームでの出会いから自分を見つけていく物語です。
主人公は宮路くん。
高校生の時に出会ったバンド仲間との音楽活動が心から離れず、
大人になっても音楽への夢を諦められないうちに29歳になってしまった青年です。
実家を出て独り暮らしをしていますけど、働いている訳では無く親からの仕送りで生活しています。
どこかちょっとどこか浮世離れしているような印象を受ける青年です。
何と言っても宮路くんにとっては音楽を奏でるのが一番の幸せな時間です。
舞台に立てる機会があれば、喜んで向かいます。
今回は老人ホームのレクリエーションの時間に、老人たちを前に音楽を奏でます。
でも、自分の好きな曲ばかり集めた演奏は、老人たちを退屈させるだけでした。
そんな時に老人たちを魅了したのがホームで働く渡部くんのサックスの演奏です。
介護士の渡部くんが奏でる音色は老人たちだけでなく、宮路くんの心をも震わせます。
そして何故か、宮路くんは老人たちに“ぼんくら”と呼ばれながら
彼らに頼まれた買い物を届けに毎週ホームへ通うことになりました。
今作で登場した渡部くんは、中学駅伝で頑張る男子たちを描いた『あと少し、もう少し』で登場する
あの渡部くんのようです。
両親が離婚して祖母に育てられた彼は、吹奏楽部なのに走る能力を見込まれて駅伝に参加しました。
中学生の頃から大人びていてクールだった渡部くんは、介護士の道を選んだようですね。
祖母の愛を受けて成長した彼らしい選択だなあと思います。
そんな渡部くんは、ミュージシャンの夢を持つ宮路くんの熱意に押されて
老人ホームでの発表会を目指して演奏の練習を重ねることになります。
クールな渡部くんと実は気遣いの人の宮路くんのコンビはちょっと面白かったです。
それにしても、やっぱり瀬尾まいこさんの物語は好きです♪
今回は渡部くんが登場するので、単行本ですけどつい購入してしまいました(^^ゞ
でも、心が洗われるような優しさと人の温かさを伝えてくれる展開に、
疲れ気味の心も癒された気がします。
読んでよかったです~
(20210306)