南アフリカ出身の人たちが作り上げた、現代の南アフリカを描いた作品です。
監督、出演者、そして音楽も、全てが南アフリカでした。

ツォツィはスラム街をねぐらにしている不良グループのリーダー的存在。
4人組で行動し、狙いをつけると窃盗、暴行、強盗、時には殺人までも行なう。
そして彼は怒りのスイッチが入ると、仲間も容赦なく殴り倒してしまうほど暴力的になる
とびきりの不良だった。
ある日、雨の中を怒りと共に彷徨していると
家の門が開かないために立ち往生している車を見つけた。
とっさに車が欲しいと思ったツォツィは、運転していた女性をピストルで撃って逃走する。
しかし突然、後部座席から赤ん坊の泣き声がした。
驚いたツォツィは思わず振り返り、車を壊してしまう。
仕方なく金目の物を奪って車から去ろうとした彼だが、訴えるような泣き声につられて
つい赤ん坊を紙袋に入れて連れ去ってしまった…

貧富の格差が激しい現実や、貧困にあえぐ人々の厳しい生活を描きながらも
心の優しさを描こうとしているこの作品の視線はとてもシンプルで
胸の奥底まで響いてくるような作品でした。
もう、出だしから鳴り響く、低音のビートが利いたミュージックに圧倒されました。
言葉は全然分かりませんけれど、それでも何かを訴えかけてくるような音だと感じました。

そして、目だけがギラギラしていて無表情に見つめてくる顔に圧倒されました。
何もしていなくても人を威圧するようなオーラを持っている不良。それがツォツィです。
彼がどんな人生を送ってきたのか知りたくないと思ってしまうほど、その存在感は怖かったです。
彼が伝えるメッセージは暴力となって表れます。だから、彼の心の痛みなど、誰も気付きません。

そんな彼が泣くことしか出来ない乳飲み子と出会って変わっていきます。
まるで何も感じないかのような無表情な瞳を持つ不良だった彼が
女性が赤ちゃんにお乳を与える姿を眩しく感じるようになります。
そんな表情の変化を、主演を演じたプレスリー・チュエニヤハエが繊細に演じていました。
最近、彼が偽造運転免許の所持で捕まったというニュースを聞き驚きました。
良い映画に出て良い仕事が出来る人なので
ぜひ、二度と罪を犯さないように立ち直って欲しいです。

“アフリカ映画”というくくりを越えて、誰もが持っている素直な心を信じたくなるような1本です。


(070418)