吉田修一著の同名小説を映画化した作品です。
殺人を犯してしまった清水祐一(妻夫木聡)と出会い系サイトで馬込光代(深津絵里)を中心に描いた愛の物語です。
閉塞的な地方の小さな町で生まれ育った祐一と光代は、それぞれ出会い系サイトでしか相手を探す手立てが考えられませんでした。
二人とも一夜の遊びとかではなく、本気で相手を探そうとします。
それが相手に伝わった時、互いにかけがえの無い存在となっていきます。
でも、祐一は光代と出会う前に、やはり出会い系サイトで知り合った石橋佳乃(満島ひかり)を殺しています。
そのことは二人を出口の無い逃避行へと駆り立てていきました。
彼らの逃避行と平衡して描かれているのか、事件に関わってくる人間とその家族たちです。
祐一は幼い頃に母に捨てられ、祖父母の家で育てられます。
高齢になった祖父は病弱で入退院を繰り返していて、当然その送り迎えは祐一の役目です。
祖母(樹木希林)も祐一がいなければ暮らしていけないと言っています。
昼は肉体労働、家へ帰れば祖父母を気遣い、鬱屈した気分を発散させられるのは夜に車を飛ばして出かけることくらいでした。
そんな彼が事件の犯人だと分かった時、逃亡している彼の代わりに祖母がマスコミのレポータに囲まれてしまいます。
そんな祖母を町の人々は冷たく突き放すのではなく、気遣い励まそうとします。
人柄まで良く理解しながら生活してきた小さな町ならではかも知れませんね。
バスの運転手さんが祖母に言った、ぶっきらぼうだけど温かさを感じる言葉には泣かされました(T_T)
一方、殺された石橋佳乃(満島ひかり)の父・石橋佳男(柄本明)の嘆きは悲痛です。
都会暮らしをしている一人娘を心配していた彼は、突然、愛する娘が無残に殺されたことを知ります。
その怒りは事件のきっかけを作った大学生・増尾圭吾(岡田将生)にぶつけられます。
自分は彼女を車から蹴り出して人気の無い峠に置き去りにしたが殺してはいないと笑顔で話します。
増尾にとっては、彼女が死んだことも、彼女の父が嘆くことも、全ては笑い話なのです。
そんな彼の姿には本当に大切な者・愛する者がいない人間の哀れさを感じました。
そして、普通に暮らしている人々の中に、こんな異次元の怪物のような人間もいることが怖くなりました。
印象に残ったのは、誰も自分の言葉を信じてはくれないことに、祐一がトラウマを持っていたことです。
トラウマを持ったきっかけは、母親が彼を捨てたことです。
そして、彼が殺人を犯してしまったきっかけのひとつは、祐一が佳乃に
あんたなんかの言葉は誰も信じないと言われたことです。
殺人事件は偶然と不条理な八つ当たりと怒りから起きていますけど、最後のきっかけは“誰も信じてくれない”という想いです。
きっと彼を捨てた母親は全く感じていないかも知れないですけど、彼の人生を一番傷つけたのは
やはり母親なのだなあと感じました。
それにしても、光代には泣かされました(T_T)
彼女を演じた深津絵里さんが主演女優賞を受賞したのも納得ですね。
この切ない愛の物語の中でも、一番共感できるのが光代だったのもあって、
後半、彼女が必死に祐一と過ごせる時間を得ようとする姿には胸を衝かれました。
ラストの彼女の言葉に、何とも言えない切なさを感じた1本です。
監督:李相日 出演:妻夫木聡 深津絵里 岡田将生 満島ひかり 樹木希林 柄本明 宮崎美子
2010年 日本
→公式サイトはこちらへ http://www.akunin.jp/index.html