1944年。サイパンはアメリカ軍の上陸により、生き残った日本軍は山に拠点を移していた。
また、アメリカ軍の捕虜になると酷い目に合うという噂があったため、
多くの民間人も投降せずに山へと逃げ込んでいた。
だが、アメリカ軍の圧倒的な軍事力に日本軍は打つ手が無くなっていく。
とうとう、玉砕覚悟の総攻撃が行なわれ、大多数の日本兵たちがアメリカ兵と共に命を落としていった。
静けさが戻って来た時、運よく生き残った大場大尉(竹野内豊)は仲間たちの遺体を見て呆然となっていた。
その時、彼に声を掛けてきたのは、遊軍を引き連れた堀内一等兵(唐沢寿明)だった…
日本から遠く離れた土地で、その時に最良の道を選択しながら必死に歩もうとした一人の男の姿を描いた作品です。
私はどちらかというと戦争映画は苦手です。やっぱり人の死は観ていて辛いのです。
特に太平洋戦争末期のサイパンなんて、考えただけでも怖さを感じます。
この映画も戦闘シーンも迫力があって、無残にも命を失っていく兵士たちの姿を哀しみと共に見つめていました。
でも、いつの間にか引き込まれていったのは、主人公の大場大尉の存在感だと思います。
彼は元教師であり、小さな子供たちと接するのが好きな人です。
逃げる途中の民家で幼い赤ちゃんを見つけると、貴重な自分の水を飲ませて「生きろ」と囁きます。
そして、アメリカ兵に見つけてもらえるように、軒下に目印をつけてから去ります。
一緒に移動していた堀内一等兵たちには、自分たちの存在を感づかれるからと止められますけど、
大場大尉は小さな命の方を大切に考えるのです。
初めの頃、大場大尉は一人でも多くのアメリカ人を倒すことが自分の使命だと思って行動しています。
でも、自分たちが離れている時に民間人の居住地が攻撃されたのをきっかけに、
敵を倒すことよりも目の前の民間人たちを守ることが大切だと考え直します。
そして、民間人と兵士を合わせた約200人を統率し、何とか生き延びようとするのです。
この思考の柔軟性が彼の一番の魅力だなと感じながら観ていました。
対するアメリカ軍のルイス大尉(ショーン・マッゴーワン)の存在も興味深かったです。
彼は2年間日本に住んだことがあるらしく、多少の日本語ができ、日本人独特の考え方も理解している人です。
アメリカ人にとっての一番の謎は、日本兵士や民間の日本人たちが次々と自害していくことです。
なぜ、投稿せずに死を選ぶのかという質問に、ルイス大尉は将棋の駒を使って説明していきます。
その話がとても面白かったです。
それにしても、竹野内豊さんの佇まいが印象的でした。
どちらかと言えば口数は多くなく、もの静かに見える主人公です。
もちろん日本軍の大尉なので日本が勝つことを心から信じ、敵を倒すことをだけを考えていましたけど、
次第に民間人たちをはじめとする人々の命を守ることを優先に考えていくようになります。
その思考の流れを哀しみの表情で静かに伝えてくれる姿に、
戦争という極限の中でも、自分の考えを持ち続けることの大切さを感じました。
大場大尉が最後に選んだ道を、彼ならではの方法で切り開いていった結末には
静かな感動を覚えました。
観終わった時、心に勇気と力を貰ったような気がした1本です。
監督:平山秀幸 出演:竹野内豊 ショーン・マッゴーワン 山田孝之 唐沢寿明 阿部サダヲ 井上真央 中嶋朋子 岡田義徳 板尾創路 光石研 柄本時生 ベンガル
2010年 日本
(201102)
→公式サイトはこちらへ http://www.taiheiyo-no-kiseki.jp/index.html