“戦争”と“記憶”がキーワードになっている映画を続けて観ました。
この作品はどこからとも無く自然の音色が聞こえてくるような静けさと共に
切なさが胸に来るような物語でした。

孫に付き添われて電車に乗っているおばあさんがいた。
彼女はこれまでは東京の娘夫婦の元で暮らしていたのだが、娘が亡くなった2年前から
少し認知症の兆候が出てきており、婿と若い孫の家庭よりはということで
長男一家の住む千葉の千倉へ行くところだったのだ。
おばあさんは館山の海を見て、ここへ寄り道したいと言い出した。
ここはおばあさんが15歳の時、戦争のために疎開をしていた家があったのだ。
仕方なく同行する孫とタクシーに乗りつけると、おばあさんは意外に道を覚えていた。
そしてたどり着いた家は茅葺きで土間のあるとても古い家だった…

おばあさんと23歳の孫、現在の住人の母と10歳の娘、前住人の妻。
女5人だけで綴られていく物語です。

物語の中心は香川京子さんが演じるおばあさんです。
遠い約束。忘れかけている記憶。そして不思議な伝説。
おばあさんが何を求めてこの家へやって来たのか知らされないまま、物語は進んでいきます。
ヒントはおばあさんがここに住んでいた時に白い蛇に出会って
「自分に正直に生きなさい」と言われたという夢のような昔話だけです。

物語が段々と進んでいくにつれて
彼女たちがそれぞれに重大な問題を抱えているのが見えてきます。
解決できない問題を抱えて、でも他の女性たちには知られないように秘密にしています。
それらを秘密にしたまま、時々何かを探しに行くおばあさんに付き合っています。
そして、思い出されてきたおばあさんの約束は
昭和20年の終戦直前に交わされたものでした。

約束を忘れること。それは約束をした相手を死なすことと同じ。
それに気付いたおばあさんの哀しみが静かに伝わってきました。

それにしても香川京子さんや樹木希林さんをはじめとする5人の女優さんたちがみんな上手くて
すっかり、この静かな世界に入り込んでしまいました。
爽やかさを感じるラストシーンに、ちょっとほっとした1本です。


(090302)