ひとりの少女の孤独と不安、そして希望が静かなピアノの音と共に伝わって来ました。

ある日、池のボートで和音(ワオ/松山ケンイチ)がのんびりとくつろいでいると
突然、少女(成海璃子)に声をかけられた。
彼女は慌てた様子でボートに乗せてと要求してきた。
仕方なく少女を乗せたワオが彼女の言うままにボートを進めていくうちに
少女はバランスを崩してボートから落ちてしまった。
また別の日、ワオは商店街の八百屋の二階でピアノを弾いていた。
実はワオは八百屋の息子で音大を目指す浪人生だったのだ。
隣の洋服店からはピアノの音がうるさいと、今日も苦情を言いに来ていた。
そんな喧嘩をよそに、先日の少女がすーっと八百屋の店先から入っていく。
そして、ワオが喧嘩に参加している間に始まったピアノの演奏は
誰もが聴き惚れてしまうようなキラキラした音色だった…

ピアノ演奏が好きだけど音は冴えない19歳の青年ワオと13歳の天才少女うたの物語です。
うたは言葉を話す前にピアノが弾けたほどの天才少女で、その音には誰もが魅了されます。
反して、ワオの演奏は決して特別では無いけど、素朴で安心できる音を奏でます。
世界の誰をも敵に回してしまうようなトゲトゲした性格のうたが
そんな音を紡ぎだすワオを信頼するようになるのです。
音によって結ばれた絆。
そんな二人の心の通い合いが眩しいと同時に、かなり羨ましかったです(^^)

天才と言われるような才能を持つが故の孤独。
普通には生きられない彼女の心の痛みは人には理解されません。
彼女の放つ攻撃的な言葉は人を傷つけるのに、彼女の音楽は人をひきつける…
そんなアンバランスさが最初から最期まで緊張を感じさせました。

それにしても、説明的な映像や台詞が少ない作品でした。
音も台詞の一部になっているので、この音色はどんな意味だろうかと息をつめて聴いていました。
映画を観ているというよりは、クラシックのコンサートをじっくり聴いている気分になりました(^^ゞ

ラストの暖かい音色の空気にとけて広がっていくような余韻が心地よかった1本です。


(070424)