同じアパートに住む30歳の聡(岡田准一)と七緒(麻生久美子)は
お隣同士だがお互いの顔は知らないまま暮らしていた。
壁が薄くて隣の音が筒抜けだったため、顔を知らない方が気まずくないと思っていたのだ。
七緒は近所のフラワーショップで働きながら勉強中で、
フラワーデザイナーとして独立できる技術を身につけようとフランスへの留学を目指している。
そんな彼女がフランス語を懸命に覚えようとしている声は、聡の心をいつも元気付けていた。
一方、聡はファッション雑誌やモデルの写真集で名を上げている人気のカメラマン。
だが本当は風景写真家を目指したいという希望を胸に、密かにカナダへ行く計画を立てていた。
そんなある日、聡の親友シンゴ(池内博之)が行方不明になった。
ちょうどカナダ行きのことをシンゴに報告しようとしていた聡は、
自分のカナダ行きが原因で彼が姿を隠してしまったのではないかと不安になる。
そして突然、シンゴの彼女を名乗る茜(谷村美月)が聡のアパートへ転がり込んできた…
隣同士で暮らしていた二人の人生は知らないうちに静かに交差していきました。
30歳という人生の岐路に立った男女が次の道を考えます。
自分の夢をかなえようとステップアップ目指そうとするのです。
でも、そう簡単に行かないのが30歳というものです。
聡は友人の彼女が突然やってきても受け入れてしまうような
優しさとちょっと優柔不断な弱さを持っています。
風景写真家になるという夢を持っているのですけど、親友や仕事での人間関係と
夢への近道となるようなずるい誘惑に悩まされ始めます。
そんな彼は隣の部屋から聞こえてくるフランス語の声や歌声に
いつも微笑みながら耳を澄ませていました。
また、真っ直ぐに夢へ向かっていた七緒も
思っても見なかった恋の告白を受けて自分を見つめ直します。
彼女にとってフランス留学は揺るがない決心だったのですけど
その留学の前に深く傷つく出来事が起きてしまいます。
たまらず彼女が泣き声を漏らすと、やがて隣の部屋から彼女がいつも歌っていた曲が聞こえ始めます。
それは聡からの応援メッセージです。
隣に住む聡は彼女にとって見知らぬ人でしたけど、彼の気配は彼女の心を静めていきました。
それにしても心温まる作品でした~
音だけで相手を感じるという不思議な親密さと、それを大切に思ってしまうような孤独感が
都会の中に生きる若者たちを浮かび上がらせています。
彼らがふと隣を感じる時、何を感じているかの説明はありません。
でも、観る者が感じられるものを主人公たちも感じているのだろうなあと思ってしまいます。
そして、そんな二人を演じている岡田准一さんと麻生久美子さんの演技も
誰もが感情移入できるような普通の夢みる若者を体現していました。
隣の人は何する人ぞというような東京のアパートを舞台にして
こんな優しい物語が描かれていたのが嬉しかったです。
観終わった時、また、いつか観たくなるだろうなあとちょっと思った1本です。
監督:熊澤尚人 出演:岡田准一 麻生久美子 池内博之 谷村美月 岡田義徳 市川実日子
2009年 日本
(20090520)