81歳のエミル(エミル・ケレシュ)は長年連れ添ってきた70歳のヘディ(テリ・フェルディ)と二人暮し。
公営アパートでほそぼそと年金生活を送っていた。
だが、年金だけでは暮らしては行けず、家賃や電気代の滞納により
とうとう役人が取り立てにやって来てしまう。
目ぼしいものを探していた役人がエミルの大切な蔵書を持ち出そうとしたところ
ヘディはそれを止め、自分が身につけていたイヤリングを差し出した。
それは二人が出会った時にヘディが身に付けていた、彼女にとってのプライドとも言えるような
大切なイヤリングだった。
彼女にそこまでの犠牲を強いてしまった自分と社会に怒りを覚えたエミルは
その夜、ヘディの寝顔を見つめてから、そっと家を出て愛車チャイカに乗り込んだ。
翌朝、緊張で顔を強張らせたエミルはピストルを手に郵便局の窓口へと向かった…
老夫婦の強盗犯が巻き起こす事件が社会現象へと広がっていく様子が楽しかったです(^^ゞ
年金での生活に困って始めてしまった強盗。
エミルは当然ピストルを片手に相手を脅すのですけど、決して暴力的ではありません。
まるで相手にお願いするように要求します。
どう見ても普通のおじいさんなのです。
そんな普通のおじいさんが強盗を働かなくては生きていけない状況に、世間からは同情の声が上がってきます。
エミルたちのもらっている年金は4万フォリント。これは平均収入の約1/3くらいらしいです。
経済や社会情勢が変わって物価が上昇しているのに年金はそこまで増えていません。
公営住宅に住んでいても家賃が払えなくなるような状態になってしまったのは
彼らのせいではないとみんなが分かっているのです。
強盗という手段は悪いとは思っていても、年金生活の老人たちが置かれた状況を世間に知らしめた功績に
同じ境遇の老人たちはエミルたちをヒーローのように思い始めます。
でも、エミルとヘディはただひとつの目的地に向かっているだけでした。
それにしても、ハンガリーの歴史や社会情勢に疎い私には、エミルとヘディが出会った
映画の出だしの1950年代のシーンの意味が分かりませんでした(^_^.)
後でパンフレットを読んだら、その頃に行われていた貴族の財産を没収しているシーンだったのですね。
共産党員エミルと貴族の娘ヘディは、時代が違っていたら結ばれない二人だったのかも知れません。
そう思うとヘディがエミルに向かって言う「あなたはいつも私を守ってくれた」という台詞が
より一層暖かく感じられました。
見終わった時、ちょっとだけファンタジーっぽいラストに良かったと思いながら映画館を出た1本です。
監督:ガーボル・ロホニ 出演:エミル・ケレシュ テリ・フェルディ ユーディト・シェル ゾルターン・シュミエド
2007年 ハンガリー 原題:KONYEC
(20090703)