台湾人の夫を亡くした矢野夕美子(尾野真千子)は
遺骨と共に幼い息子二人を連れて、夫の故郷・台湾東部の花蓮を訪れた。
8歳でしっかり者の長男・敦(原田賢人)はちょっと反抗的で母の小言に仏頂面ばかり。
一方、6歳の甘え上手な弟・凱(大前喬一)はいつも兄にくっついて遊んでいた。
そんな二人にとって初めて来る台湾は、言葉も通じない未知の世界だったが、
怖そうな顔をしていたお祖父さん(ホン・リウ)はカタコトの日本語で優しくお話をしてくれた。
敦が生前に父から貰った“トロッコと一緒に少年が写っている写真”をお祖父さんに見せた。
夕美子が写っているのは夫かと尋ねると、お祖父さんの少年時代の写真だと答えた。
その写真を見ていたお祖父さんは、その場所を探しに行こうと兄弟を誘う。
だが、その場所は見つからなかった…
母子3人が日本から台湾を訪ねるところから始まる作品です。
静かに物語が進んでいく中に、いろいろなテーマが織り込まれていました。
夕美子は旅行関係の本を執筆している作家です。
でも、仕事が忙しいようで、これまでも家事や子育てをしっかりとしてきたようではありません。
夫に先立たれて、生意気になってきた息子たちをどう育ててよいか悩んでいます。
でも弱音を吐けず、特に長男の敦には頼りにしている分、厳しく接してしまいます。
そんな母親の態度に、敦はますます頑な表情を見せるようになっていきます。
お祖父さんの家についてからも、そんな親子関係は変わりません。
でも、夫の両親や弟が一緒にいると、なんとなく夕美子の心は和らいできます。
やっぱり子供への責任を一人で背負うにはキツイのだろうなあと、夫の家族も気付いてはいるのです。
そして、夕美子本人も自分の心のゆとりの無さを実感し、自分を見つめ直すようになりました。
そんな親子の物語とは別に、台湾が戦前に日本に占領されていたという歴史が見えてきます。
お祖父さんや彼と同年代の老人たちは、子供の頃に日本語の教育や日本名を与えられてきました。
特にお祖父さんは2年も日本軍に従軍しています。
でも、その歴史は終戦と共に彼の前から消え去り、喪失感だけが残りました。
60年以上過ぎた今でもその喪失感を持ち続けているお祖父さんの姿はとても切なく心に残りました。
この物語に登場するトロッコや線路は日本人が檜を運ぶために作ったものです。
少年の頃はこのトロッコが日本へ連れて行ってくれると思っていたと笑顔で語るお祖父さんの言葉は
未知の国だった日本への純粋な憧れで溢れていました。
物語が進んでいく中で、ふとその言葉を思い出した時、
一見バラバラに見えたシチュエーションがひとつに繋がった気がしました(^^ゞ
小さな田舎町の風景に昔懐かしい思いを感じたと同時に
いつか消えていく台湾の歴史を忘れてはいけないなあと思った1本です。
監督:川口浩史 出演:尾野真千子 ホン・リウ 原田賢人 大前喬一 チャン・ハン ブライアン・チャン
2010年 日本/台湾
(20100527)
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