『
ファストフード店の住人たち』
様々な理由から帰る家の無いまま社会の片隅で生きる人々の姿をリアルに描いたドラマです。
豪華な俳優陣と切ないストーリーでとても見ごたえのある作品でした。
日本のネットカフェのような場所が香港では24時間営業のファストフード店になっているようです。
彼らは毎日同じ場所で夜を過ごすうちに仲間として助け合うようになっていきます。
その中心人物のポック(アーロン・クォック)が仲間を大切にする天使のように面倒見のいい人で、
辛い日々の中でもほっとするシーンを見せてくれます。
でも、彼らを巡る現実は本当に厳しいです。
ポックを待ち受ける運命も厳しかったですし、中でも亡き夫の義母が博打狂いために、
幼い娘を抱えながらも命を削るように働き続ける若い母親の姿はとても痛々しかったです。
運命によっては誰もが陥りそうな厳しい暮らしの中で生きていく辛さをしみじみと感じました。
観終わった時、彼らの人生は他人ごとではないとため息をついた1本です。
監督:ウォン・シンファン 出演:アーロン・クォック ミリアム・ヨン アレックス・マン
2019年 香港 原題:i'm livin' it[麥路人]
(20191029)
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東京国際映画祭のHPはこちらへ https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32ASF08 『
わたしの叔父さん』
デンマークの農場で暮らす叔父と姪の姿を描いた、今年の東京グランプリに輝いたドラマです。
まるでドキュメンタリーのように感じるリアルな雰囲気に引き込まれました。
亡き両親の代わりに育ててくれた叔父の家で暮らす女性クリス(イェデ・スナゴー)が主人公です。
小さな農場を営む叔父は身体が少し不自由で補助なしでは暮らしにくい状況のため、
日々の生活や仕事はクリスの手助けが必須です。
彼女自身も農場の生活は嫌いではなく、叔父と牛の世話をしながら淡々と暮らしています。
農場のある風景も静かな空気感も美しさを感じるくらいです。
ただし、傍から見ると若い彼女にはこの生活がとても静か過ぎるように思えてきます。
本人も獣医になりたいという願いを持っていて、そのための進学もしたいと思ってもいます。
でも、叔父への心配からその希望と現実の間で揺れています。
若者への介護の負担という社会問題を背景に考えても、
彼女の置かれた状況とその姿は観ていて切なかったです。
ティーチインで監督さんが言っていたのですけど、実はECとの約束で、あと数年の間に
デンマークにあるこういう個人経営の農場は閉鎖されるらしいです。
二重の意味でこの叔父さんは将来どういう人生を歩むのだろうなあと切なくなった1本です。
あと、すごくリアルだなあと思ったら、この叔父さんは主演女優さんの本当の叔父さんで
この農場も叔父さんの家なのだそうです。
(ちなみに叔父さんは俳優さんではありません(^^ゞ)
監督さんも、記録映画のような意味もある作品だというようなことを言っていました。
監督:フラレ・ピーダセン 出演:イェデ・スナゴー ペーダ・ハンセン・テューセン オーレ・キャスパセン
2019年 デンマーク 原題:Uncle[Onkel]
(20191103)
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東京国際映画祭のHPはこちらへ https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32CMP14『
ミンダナオ』
民族紛争が絶えないフィリピン南部を舞台に、余命わずかの幼い娘を持つ母と
戦場で戦わなくてはならない父の現状を描いた家族のドラマです。
母は娘の病気はきっと治ると信じ続けていますけど、
脳にまで転移した病はもう手の施しようがない状況だと伝わってきます。
また、夫は兵役で戦場に駆り出されており、連絡もままなりません。
可愛い娘に会いたくても会えない父の心情も、不在の夫に苛立つ妻の心情も
どちらもやるせなく感じました。
ただ、ポスターは重苦しい雰囲気ですし、実際にもそうなのですけど、
母が4才の娘に民話を語り聞かせるシーンは、その物語が色鮮やかなクレパス画の絵本のような
素晴らしいアニメになっていて、感動的なほど美しかったです。
幻想の世界の美しさと現実の非情さの対比が胸に沁みました。
この作品で描かれている内戦は市民の日常生活にも深く影を落としています。
実はこの作品の前に観た『湖上のリンゴ』の監督さんが、宗教も民族も関係ないこの場所で
皆さんと時間を共有出来て嬉しいと言っていました。
この映画を見て改めて本当にそうだなあと感じました。
監督:ブリランテ・メンドーサ 出演:ジュディ・アン・サントス アレン・ディソン ユナ・タンゴッグ
2019年 フィリピン 原題:Mindanao
(20191102)
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