『悪は存在せず』4つの物語をオムニバス形式で綴った、今年のベルリン映画祭金熊賞受賞作品です。
さまざまな年代の男たちが主人公の作品でした。
公的な施設で夜勤の業務についている、黙々と働く男の物語。
あまり言葉を語らない大人しそうな男なのですけど、実は心に鬱屈したものを抱えているように見えます。
この物語のラストは4作品の中で一番衝撃を受けました。
兵役で割り振られた所属が死刑囚の刑を実行する部署で、人殺しはしたくないと苦悩する若い兵士の物語。
彼は諦めろと同僚に説得させられているうちに、執行時間になってしまいます。
でも、同僚の一人のささやきが男の未来を変えていきました。
久々に会う恋人に結婚を申し込むため、3日間の休暇を得た兵士の物語。
結婚を申し込もうと意気揚々と恋人の家へ向かうと、彼女の家は悲しみに包まれています。
真実を知るにつれて、心を揺るがすような結末が見えてきました。
アメリカで暮らす学生時代の友人の娘をイランへの旅行に招待した男の物語。
なぜ、友人の娘を遠いイランの地へ呼んだのか。
明かされた真実は予想はついたのですけど、やっぱり切なかったです。
イランでは兵役があり、兵役を課せられた男性は兵役を終えないと免許もパスポートも取れず
社会人として生きるのは難い状況に陥るそうです。
そういう国に生まれた彼らが心を揺るがすような選択に迫られた時にどう対処するか
どのような選択をするかを彼らと一緒に考えさせられるような物語が描かれていました。
観終わった時、それでも彼らは幸せな人生を送って欲しいなと願った1本です。
監督:モハマッド・ラスロフ 出演:エーサン・ミルホセイニ シャガイェグ・シュリアン カヴェ・アハンガル
2020年 ドイツ/チェコ/イラン 原題:There Is No Evil/Sheytan vojud nadarad
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東京国際映画祭の公式サイトはこちらへ https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC12『ノットゥルノ/夜』中東の国境付近で暮らす人々の姿を映し出したドキュメンタリー映画です。
戦禍で受けた略奪と残虐の傷跡の中で暮らす人々の姿を映し出していると、
どれほどの悲劇が行われてしまったのかが伝わってきます。
廃墟の施設を訪れ、息子がここで拷問を受けて殺されたと壁に残された痕を示しながら嘆き悲しむ母。
武装集団にさらわれた娘が怖いと伝えて来た留守電を聴かせながらスマホを握りしめて泣く母。
孤児院では黙々と絵を描いた後に子供たちが絵の説明をしてくれますけど
どれもが家族を無残にも殺された悲劇の状況が刻まれていました。
一方で静けさを取り戻した砦では女性兵たちが鋭い視線で見張りに立ち
武装集団の脅威から守ろうとしています。
また、川に舟を出して糧を得ている男性や家計を支えるために狩猟者へ声を掛けて働く少年など
静かな日常を淡々と映し出していました。
正直、解説の無いドキュメンタリーなので、よく理解できていないなと感じる部分もありましたけど
この映画を今スクリーンで観ることが出来て本当に良かったと感じました。
観終わった時、いろいろ考えて頭がいっぱいになった1本です。
監督:ジャンフランコ・ロージ
2020年 イタリア/フランス/ドイツ 原題:Notturno
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東京国際映画祭の公式サイトはこちらへ https://2020.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3304WFC04