優しくて温かくて、でもとても切なくなる物語でした。

ハンサムで人気俳優だったモーリス(ピーター・オトゥール)も寄る年波には勝てず、
死体役などをして細々と俳優家業を続けていた。
ある日、家も近所で茶飲み友達の俳優仲間イアン(レスリー・フィリップス)から
彼の家に姪の娘ジェシー(ジョディ・ウィッテカー)がやって来ることを聞かされる。
イアンは若い女の子に身の回りの世話をしてもらえると嬉しそうだった。
だが、翌日になると怒った顔をしたイアンの愚痴を聞かされる。
彼女は料理は全く出来ないし、気がきかなくて意思の疎通もうまく出来ないらしい。
そんな時、彼の家を訪ねたモーリスは若さゆえの輝きと傍若無人さを兼ね備えたジェシーに目を奪われる。
モーリスはジェシーを街へ連れ出すと自分のお気に入りの場所を案内し、かみ合わない会話を楽しんだ。
しかし、身体を蝕んできた病の重さを悟ったモーリスは、自分の命が残り少ないことを感じ始めていた…

70代の男性と20代の女性の心のふれあいがじっくりと描かれていました。

プレイボーイなモーリス。彼は幾つになっても女性に心を惹かれ女性を求めています。
妻と子供を残して家を出たのもそれが理由。70歳を過ぎても相変わらずです。
妻に愛しさを感じても、惹かれるのは20代の若い女の子ジェシーなのです。
でも、ジェシーがモーリスに感じるのは老いだけ。彼は老いの匂いがすると言って遠ざかろうとします。
若い彼女には彼の執着心が理解できず、重くて気持ち悪く感じるのです。

彼女は彼に老い=死の匂いを感じたのかも知れません。
若者にとって死は理解できないと同時に怖いものです。
モーリスは自分には余命が残り少ないことを感じ、やがて来る死を受け入れて始めています。
そんな時に出会ったジェシーは彼にとっては最後の“ヴィーナス”でした。

若さゆえの残酷さでモーリスを傷つけるジェシーと、そんな彼女を深い優しさで包もうとするモーリス。
二人の心が通じ合った時、彼は本当に心が安らぎと幸せを感じていました。

それにしても、ピーター・オトゥールとレスリー・フィリップスのやり取りは楽しかったです。
二人の会話とダンスは最高でした!
あと、ピーター・オトゥールとヴァネッサ・レッドグレーヴが交わす夫婦の会話も奥が深くて
ひとつひとつの言葉が心に染み入るように感じました。

次はどんなことを感じるか、また何年か経ったら見直してみたいなあと思った1本です。

監督:ロジャー・ミッシェル 出演:ピーター・オトゥール レスリー・フィリップス ジョディ・ウィッテカー
2006年製作 イギリス 原題:Venus
(071111)