宮廷画家ゴヤにまつわる人々を通し、18世紀末スペインに何が起きていたかを描いた作品です。
影に覆われたような当時の空気の中で行なわれた異端審問は本当に恐ろしかったです。
観終わった時のショック度は、今年観た中でも1位2位を争うほどでした~

1792年のスペインでは、ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)の版画が世間を賑わせていた。
カトリック教会の権力者を風刺した版画で、権力者たちの醜さが端的に描かれていた。
権力者たちはその絵を見て怒るが、ゴヤは王に認められた宮廷画家のため手出しは出来ない。
だが、カトリック教会は世間に与える自分たちの力を取り戻そうと考える。
そして、異端審問制度が復活された…

スペインを代表する画家ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)。
そのゴヤの手で天使のモデルにまでされた美しさを持つイネス(ナタリー・ポートマン)。
異端審問を先頭に立って仕切りつつも時代に翻弄されていくロレンソ神父(ハビエル・バルデム)。
彼らの人生を交差させながら物語は展開していきます。
中でもイネスのたどった人生はあまりにも過酷なものでした(T_T)

イネスは裕福な商家に生まれた女の子です。
天使のように美しい女の子ということで両親にも兄たちにも甘やかされて育てられたのでしょう。
彼女は兄たちに連れられていった酒場で、勧められた豚肉を嫌いだと食べませんでした。
そこを異端審問所員に見咎められ、召喚状が来てしまうのです。
嫌疑はユダヤ教徒ではないかというものでした。
そして結局、彼女は16年もの間、投獄されてしまいます。
16年後、牢獄から出て来たイネスの変わり果てた姿には本当にショックを受けました(T_T)

権力の持つ人間の恐ろしさと愚かさをイネスは一身に受けてしまいます。
そして、その後に起きたナポレオンによる侵略と暴力はスペインの全てを変えていきます。
ゴヤはそれら事実を受け止め、人の心を揺さぶるような絵として遺していきました。

それにしても、ステラン・スカルスガルド、ハビエル・バルデムといった名優たちの中でも
ナタリー・ポートマンの素晴らしい根性ある演技には圧倒されました。
イネスの波乱の人生を演じられるのは彼女しかいないですね。
そして、彼女の美しさを18世紀末の動乱のスペインに置いて
権力の恐ろしさと人間の行いが起こす非道さを描ききったミロス・フォアマン監督も凄いと感じました。

エンドロールで映し出されるゴヤの絵を見ながら、いつの時代にも権力と暴力と非道さは
絶えることなく存在するのだなあと切なくなった1本です。



監督:ミロス・フォアマン 出演:ステラン・スカルスガルド ナタリー・ポートマン ハビエル・バルデム
2006年 アメリカ 原題:GOYA'S GHOSTS
(20081029)