キング・コーン 世界を作る魔法の一粒

アメリカで二人の若者が“コーン（とうもろこし）”を辿るドキュメンタリーです。
アメリカの食糧事情と、その中で“コーン”がどのような役割を担っているのかを分かり易く伝えていました。

大学を卒業して人生の新たな一歩を歩み始めたイアンとカートはコーンに興味を抱いた。
自分の髪の成分を調べたところ、炭素の成分がコーンで出来ていることを知ったのだ。
奇しくも互いの曽祖父が同じアイオワ州にある小さな農業の町の出身だった。
敵（？）を知るには…ということで、曽祖父の育った町へ移り住み、
1エーカーの畑を借りてコーンを作り始める。
そして、コーンに詳しい知識人たちにインタビューすればするほど、
コーンがいかに食品業界に大きな影響力を持っているかを感じ始めた…

丁寧に調査していく展開を観ていくうちに
『スーパーサイズ・ミー』よりも大きな怖さがジワジワとやってきました～

『スーパーサイズ・ミー』は主人公が自分を実験台にしたドキュメンタリーです。
マクドナルドのものを朝昼晩、欠かさず食べ続けるというちょっと極端な手法で
ファーストフードが人間の身体にどのような影響を与えるか検証しました。
一気に体重が増えてメタボになってしまった主人公を観て恐ろしさを感じましたけど、
実際にはあまり無いシュチュエーションだったので、まあ自分は大丈夫かなあと思いながら観ていました。

今作はコーンを育てるところから始まります。
曽祖父の時代には1エーカーあたり500kgなら豊作だった収穫量が、今では平均5000kgにもなっています。
10倍もの収穫量を達成できたのは、遺伝子組み換えで品種改良されたからです。
収穫量が増え、育て易い品種になっています。
昔は人の手で行なわれた雑草駆除も
この改良種だと強力な農薬にも耐えられるので除草剤の散布でＯＫ。
収穫量の増加に加えて機械化により人手も少なくて済むので、コーンは安価な食品になりました。

政府の食料対策により助成金制度が出来、コーンの栽培はますます広がって行きます。
その後、過剰なほどに生産されたコーンをどのように使用できるか研究した結果、
現在ではコーンはコーンスターチや甘味料、そして牛などの飼料として用途を広げています。

多く飲まれている炭酸飲料水の甘味はコーンから出来ています。
人は水分を摂っていると同時にコーンも摂ることになり、知らずにカロリーも摂っています。
そして、いつの間にか身体に入った高い糖分とカロリーは
人の身体に糖尿病などの病気をもたらし始めます。
また、昔は牧草を食べて数年懸けて育った牛も、今では安価なコーンをもとにした飼料を食べ続け、
半年ほどで出荷されていきます。
コーンの飼料はカロリーが高く油脂成分も入っているので、太り易いのです。
ただし、コーンを食べ続けさせると、胃を壊すようになります。
そのために牛は抗生物質を投与され、出荷まで生かされていきます。
そして人々はコーンを食べて育った、油脂成分の多い安価な牛肉を食べるようになりました。

大量生産されたコーンは安価な食品を人々にもたらしました。
それは悪いことではありません。
でも、安いだけで健康のことは二の次になってしまったことは、やはり怖いことです。
この作品を観ながら、安いことの弊害は自分にも影響があったのだなあと感じました。
最近はガソリンの替わりにコーンが注目されている時代ですし、
本当にコーンはどこまで広がっていくのだろうと改めて考えさせられた1本です。



監督：アーロン・ウルフ　出演：イアン・チーニー　カート・エリス
2007年　アメリカ　原題：KING CORN
（20090612）