1985年夏。福岡から羽田に到着し、折り返し大阪へと向かったジャンボ旅客機が御巣鷹山に墜落した。
遺族のお世話係として現地へ入った恩地元(渡辺謙)たちは
持っている情報の少なさから、説明を求める遺族たちの怒りを買ってしまう。
だが、恩地には遺族たちに心を込めて頭を下げることしか出来なかった。
そんな恩地は過去に不遇の時代を送っていた。
若い頃、労働組合長として社員みんなのために会社の経営陣と戦っていたが
結果的にその対応の激しさから経営陣に嫌われ、報復人事で海外の僻地へと飛ばされたのだ。
詫び状を書けという命令にも頷かなかったため、その左遷は9年間にも及んだ。
家族との絆は危うくなり会社への想いも揺らいだが、彼は信念を持ってその境遇に耐えた。
そして今、彼は会社のためというよりは悲しみに暮れる遺族たちのために必死に働いていた。
だが、重役たちはそんな恩地を相変わらず疎ましいと思っていた…
この原作を映画として創り上げたことはどれだけ大変だったのだろう…と考えてしまいました。
映画はアフリカの狩猟のカットとジャンボ機墜落のシーンから始まります。
この墜落のシーンがとてもリアルで衝撃的です。
旅客機内の混乱から墜落までを刻々と描き
昨年に観た『クライマーズハイ』へと続くような惨状へと向かって行きます。
また、遺体の搬送や遺族による確認の様子も本当にリアルで
どれほどこの作品が真摯に創られたかを感じました。
事故のシーンの後、物語は恩地の過去の比重が高くなってきます。
彼は労使交渉でギリギリの交渉をし、経営陣から勝利を勝ち取ります。
でも、そのために左遷され、しかもその際の約束は反故にされて
他の組合幹部にも酷い報復人事が行われました。
その経営陣たちの私欲に走る姿は、醜く画面に映し出されていきます。
特に、昔の仲間たちを大切に思って生きた恩地とは正反対の人生を選んだ行天(三浦友和)の姿は
その末路と共にひとつの時代を感じさせるものでした。
また、この大企業と政治やマスコミとの癒着も奥が深くて考えさせられました。
様々な人間たちがそれぞれの私欲のために相手を利用し貶めていく…
そのあまりの酷さには観ているのが段々と辛くなってくるほどで、
この映画の製作&上映を反対する企業があるのも納得でした。
ただし、映画の中には希望も残されます。
それは改革推進の志半ばで退社をせざるを得なかった会長(石坂浩二)の
真摯な言葉に込められていました。
その希望の光を観た時、遺族たちに真摯であろうとするこの姿は一企業だけではなく
全ての働く人々に通じるものだろうなあと感じました。
それにしても、観るのにエネルギーの要る作品でした。
最初から最後まで息の抜けない展開で、観終わった時にはぐったりしました。
でも、映画全体から感じられる熱意がひしひしと伝わってきて、見応え充分でした。
ラストシーンの雄大なアフリカの大地に胸を打たれながら、
映画館で観て本当に良かったと感じた1本です。
監督:若松節朗 出演:渡辺謙 三浦友和 松雪泰子 鈴木京香 石坂浩二 香川照之
2009年 日本
(20091207)