ある夜のこと。大谷(浅野忠信)が夜道を走って帰ってきた。
彼は家の中に駆け込んで引き出しを開けると、何やら探し物を始めた。
そんな物音で目の覚めた妻・佐知(松たか子)が布団から出て話しかけると
彼は驚いた顔をして「起きていましたか」と言った。
その時、外から玄関の戸を叩く音が聞こえて来た。誰かが大谷の後を追ってきたらしい。
仕方なく大谷が戸を開けると、そこには二人の男女が立っていた。
金を返せという二人に向かって大谷は逆切れし、仕舞いにはナイフで脅しながら逃げ出してしまう。
そんな様子を観ていた佐知は夫に代わって二人に誤り始めた…
松たか子さん演じる佐知の不思議な強さが印象的でした~
太宰治本人をモデルにしたと言われているダメ男大谷と彼の妻・佐知の姿を描いた物語です。
本を読むのは好きな私ですけど、実は太宰治の本はほとんど読んでいません(^^ゞ
彼の独特な世界にどうも手が出せず、『ヴィヨンの妻』も未読のまま映画を観てみました。
今回、映画を観てみて、大谷をはじめとする男たちのダメさに比べて
佐知はなんと潔いのだろうと感じました。
彼女は黙って耐えているわけではありません。
その時々で文句も愚痴も言うし、しっかり正面きって怒ります。
一方の大谷というと、彼女の怒りに耐えられずに俯くばかりです。
その対照的な強さと弱さが、佐知には気の毒なのですけれど
何ともいいコンビのように感じました。
それにしても松たか子さんをはじめとする役者さんたちの演技が良かったです~
松さんの演じた、凛とした雰囲気を持つ佐知。
浅野さんの演じた、自暴自棄で自堕落な生活を送りながらも、どこか品を失っていないように見える大谷。
そして佐知に片想いをする工員の岡田(妻夫木聡)や弁護士の辻(堤真一)。
特に男3人のキャラクターの違いをそれぞれの俳優さんがしっかりと表現していて、
彼らの佇まい一つ一つが佐知に少しずつ影響を与えているように感じました。
観終わった時、一筋の光のように何にも負けることの無い佐知の存在を感じました。
原作にこだわった丁寧な口調の台詞回しも良かったです。
「私たちは生きていればそれでいいのです」と言い切った佐知の強さに
観ているほうも小さな勇気を貰った気がした1本です。
監督:根岸吉太郎 出演:松たか子 浅野忠信 室井滋 伊武雅刀 広末涼子 妻夫木聡 堤真一
2009年 日本
(20091209)