生きることの厳しさと命の尊さがスクリーンから伝わって来ました。
病気の息子の命を救うために、ガザ地区からイスラエルの病院へやって来た家族の物語です。
生後4ヵ月になる息子ムハンマドは先天性の免疫不全症に罹っていました。
ガザ地区にある病院では対応できない難病です。
子供うち二人の娘を同じ病気で亡くしているムスタファー夫妻は息子の命を救うため
イスラエルの病院に入院させる決心をします。
ガザ地区とイスラエルは重篤な場合には検問所を通ってイスラエルへ入国することが許可されるのです。
夫婦は治療のために動き始めますけど、難問が立ちはだかります。
治療費集め。骨髄移植のドナー探し。その後の治療。
そもそも、このドキュメンタリーを作り始めたのは、担当のソメフ医師からエルダール監督への依頼により、
テレビで募金の協力を呼びかけるためだったものが、映画へと発展したものです。
そして、真摯に医療に取り組むソメフ医師をはじめとする様々な人の努力の甲斐もあり、
事態は希望と絶望を繰り返しながらも少しずつ前進していきました。
この映画で印象的だったのは、母親のライーダさんです。
彼女は生まれ育ったパレスチナの教育で育ったため、イスラエル人とは全く違った考え方を持っています。
彼女にとってイスラエルへ来ることは敵国へ行くこと。
最初はイスラエルへの恐怖から、治療に来ることも反対していたほどなのです。
その葛藤と治療が終わったらパレスチナの世界へと戻らなくてはならない厳しさに追い詰められる現状が
彼女の心を大きく揺さぶっていることが伝わって来ました。
常に戦争状態にあるということ。隣の国のことなのに状況がきちんと伝わっていないという状況。
そして、子供にまで死を当然と思わせてしまう世界があることが観ていて怖かったです。
観終わった時、ムハンマドくんの健やかな成長と共に、この一家をはじめとする
戦禍と隣り合わせで生きている人たちの幸せを強く願った1本です。
監督:シュロミー・エルダール 出演:ラズ・ソメフ ライーダ・アブー=ムスタファー ファウジー・アブー=ムスタファー ムハンマド・アブー=ムスタファー
2010年 アメリカ/イスラエル 原題:PRECIOUS LIFE
(20110806)
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