これは悔しくて泣けてしまうよねとしみじみ感じました。
再び日本に大震災が襲った近未来の架空の県“長島県”の物語です。
小野泰彦(夏八木勲)は妻の智恵子(大谷直子)、息子の洋一(村上淳)とその嫁のいずみ(神楽坂恵)の4人で
酪農や農業をしながら暮らしています。
智恵子は軽い認知症ですが、忘れっぽいのと心が無邪気な若い頃に戻っているくらいで、
簡単な仕事なら一緒に出来ます。
また、洋一もいずみも働き者で、まだ子供はいませんが4人家族で幸せな毎日を送っていました。
そんなある日、大震災が長島県を襲います。
長島県は農業や酪農が盛んな県ですが、実は原発も建てられていました。
建物の崩壊だけでなく、海岸沿いは大津波が遅い、原発もメルトダウンを起こしてしまいます。
実は地震の直後は原発からの警報やアナウンスが無く、泰彦は原発は大丈夫だったと安心していました。
でも、放射能の被害は深刻で、数日後には20キロ圏内には避難勧告が出されてしまいます。
しかも、その20キロの境界線は小野家の庭を横切っていました。
20キロ内の隣家がマイクロバスに乗って避難していくのを横目に、
ギリギリ圏外だった小野家には避難指示が出ません。
でも、泰彦は息子の洋一にいずみを連れて避難しろと強く命令します。
年老いた自分たちはこの家を離れられないが、
若い二人は放射能から遠ざからなければいけないと思っていたのです。
洋一は両親やこの家を離れたくないと嘆きますが、父に叱られて泣く泣く去っていきました。
それにしても、遣る瀬無い物語でした。
天災に放射能が加わると、もう何も手が出せなくなってしまいます。
先祖から受け継がれた土地も、大切にしていた牛や畑も、みんな失うことになります。
その絶望の前には言葉もありませんでした。
また、人々の放射能への感覚の違いが怖かったです。
マスコミは騒ぎ立てるものではないといい、数ヶ月前にはマスクをしていた人も
放射能を気にしなくなっていきます。
でも、実際には計測値は高く、まだまだ安心には程遠い状況なのです。
それなのに、人々は恐怖を忘れて生活するようになります。
そして、いまだに厳重な防備で生活しているいずみに対して
人々から冷ややかな笑いが送られるようになっていきました。
むやみに不安がるのではなく、でも知ることなしに無防備になるのでもなく、
情報の確かさを確認しながら、現実を見つめることの難しさを感じました。
一歩一歩と廃墟の中を歩いていく姿に、彼らに素敵な未来を与えてねと願ってしまった1本です。
監督:園子温 出演:夏八木勲 大谷直子 村上淳 神楽坂恵 清水優 梶原ひかり 菅原大吉 山中崇 河原崎建三 筒井真理子 でんでん
2012年 日本/イギリス/台湾
(20121119)
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