震災の原発事故で帰る家を無くしたある一家の現在を描いた物語です。
予告編を観た時から、これは観なくてはと思っていました。
静かな視線で登場人物たちを見つめていく展開に、リアルな福島の願いが伝わってくるような作品でした。
泣くことの出来ない切なさほど苦しいものは無いなあとしみじみ感じました。
一人の若者が地面を掘っているところから始まる物語です。
次郎(松山ケンイチ)は十数年ぶりに、誰も居なくなった故郷へ戻って来ました。
福島の立ち入り禁止地区内にある家の周りには荒れ果てた田んぼや畑が広がっています。
そんな自然の中、彼はたった一人で作付けの準備を始めました。
次郎が作業をしていると、一台のトラックがやって来ました。彼のご近所だった農家の男です。
彼が請われるままにトラックへ土を乗せる手伝いをすると、男は何か声をかけて去って行きました。
そしてその夜、彼は沢を流れる水を汲み、もち米を蒸かし、
糠床から漬物を取り出して夕食の仕度を始めました。
それにしても、静かに始まって静かに終わる物語でした。
むやみに感情は爆発しないし、泣かせようという展開でもありません。
ドキュメンタリーが得意の監督さんらしく、役者たちの演じる姿を淡々と撮っています。
でも言外に現れる、見えない未来に対する不安や行き場の無い悲しみは、じわじわと伝わって来ました。
そして、切なさと遣る瀬無さで胸がいっぱいになってしまいました(T_T)
また、役者さんたちの演技が何とも素晴らしかったです。
農作業が堂に入っている松山ケンイチさんのひたむきな姿。
農作業の似合い方では松山さんのさらに上を行く田中裕子さんの佇まい。
次郎の兄で、自暴自棄になってかなり頼りない総一を演じた内野聖陽さんの寂しそうな横顔。
そして、気丈さと脆さを持ち合わせながらも、前へ進もうとしている妻・美佐を演じた安藤サクラさんの笑顔。
誰もが忘れがたい印象を与えてくれました。
母子で田植えをしている美しい姿が心に残りました。
観終った時、この束の間の静かで平和な日々が未来の現実となりますようにと願った1本です。
監督:久保田直 出演:松山ケンイチ 田中裕子 内野聖陽 安藤サクラ 山中崇 田中要次 光石研 石橋蓮司
2014年 日本
(20140310)
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公式サイトはこちらへ http://www.bitters.co.jp/ieji/