MGBのある捜査官の生き様と共に連続殺人事件の背景の恐ろしさがじわじわと伝わって来ました。
1950年代のスターリン政権下のソ連では、MGBの捜査官が強い権限で市民の秩序を取り締まっていました。
レオ・デミドフ(トム・ハーディ)は第二次世界大戦でヒーローとなり、そのままMGBのエリートとなった捜査官で、
一目惚れをした美しいライーザ(ノオミ・ラパス)をめでたく結婚をし、公私共に幸せでした。
しかし、その幸せを妬んだ部下のワシーリー(ジョエル・キナマン)がレオを陥れます。
レオの愛するライーザにスパイ容疑をかけたのです。
この時代では容疑者=有罪者となり、捜査をしてもそのまま処罰されるのが通例でした。
容疑者を処罰しないと、その家族や周辺まで処罰対象が広がっていくのです。
でも、ライーザの命を救うため、レオは自分の捜査では無罪だったと上司に訴えます。
そして、そのままレオはライーザと共に田舎の警察署へ左遷されてしまいました。
小さな警察署に赴任して間も無く、レオは少年が遺体で発見されたという報告を受けます。
現場で遺体を検分した彼は、その状況が以前に彼の親友の息子が亡くなった状況と同じだと感じます。
親友の息子はどう見ても不自然な点が多かったのに、電車事故で片付けられていました。
当時は、パラダイスのようなこの社会では殺人事件は起きないという思想が正しいとされていました。
殺人事件として捜査することは、国家の思想に反したのです。
でも、この少年の死が連続殺人だとすると、犯人は野放し状態です
そのことを必死に訴えたレオは警察署長のネステロフ将軍(ゲイリー・オールドマン)の心を揺り動かします。
そして、MGBには悟られないように二人で捜査を開始しました。
それにしても、怖い社会でした~
もちろん殺人事件も怖いですけど、その事件の捜査が長い間きちんとされなかったことが怖かったです。
レオに説得されたネステロフが過去の資料をチェックしただけで、同じ状況の死が43件も見つかります。
しかも、それぞれの事件では別々に犯人が逮捕され処罰されています。
でも、連続殺人犯が今でも生きていて少年を殺し続けているとしたら、無実の人が処罰されたことになります。
犠牲者の子供だけでなく、犯人にされた大人も大量に殺されていたことを理解した時、
簡単に冤罪が作れる社会の怖さを実感しました。
救いはレオが心の歪んでいない人だったことですね。
孤児として一時期を過ごしたことのある彼は、弱者の命を大切にする男として成長しました。
彼の部下が戒めとして罪の無い夫婦を幼い姉妹の前で簡単に射殺した時、怒りを込めて部下を殴ります。
後にライーザから衝撃の告白をされた時も、絶望に呆然としながらも妻を幸せにするために行動します。
その誠意がライーザに伝わっていく展開にはほっとしました。
そして、何度も死に見舞われそうになっても、二人で必死に正義への道を貫こうとする姿を
ドキドキしながら見つめていました。
正しいことを正しいと言えない世界に生きることの辛さと怖さがひしひしと伝わってくる作品でした。
観終った時、こんなに押さえつけられた世界で生きていかなかったとは
当時の人たちは辛かったろうなあと切なくなってしまった1本です。
監督:ダニエル・エスピノーサ 出演:トム・ハーディ ノオミ・ラパス ジョエル・キナマン ジェイソン・クラーク ヴァンサン・カッセル ゲイリー・オールドマン
2015年 原題:CHILD 44
(20150804)
→
公式サイトはこちらへ http://child44.gaga.ne.jp/