心にとても静かな余韻の残る作品でした。

安田松太郎(緒形拳)は長年病気を患っていた妻を亡くした後、
長年住んでいた家を娘に譲って、安アパートへと移ってきた。
学校の校長まで勤めあげた松太郎だったが
以前から家庭は崩壊しており、娘との仲は最悪なままだった。
静かに年金暮らしをしていた松太郎には、その家は広すぎたのだ。
彼が引越したアパートの隣の部屋には
若い母親(高岡早紀)と幼い娘(杉浦花菜)、そしてひもらしい若い男が暮らしていた。
母親は娘を幼稚園にも通わせずに放置し
自分が出かける時には食事代として小銭を投げ与えていた。
そんな様子を気にしていた松太郎は、やがて娘の足に虐待の跡を見つけてショックを受ける。
そしてある夜、叫び声をあげた娘を助けた松太郎は、そのまま娘を連れて旅に出てしまった…

親子の関係を深く考えさせられました。
松太郎は家庭でも厳格なために妻に長年の間、心労をかけてしまい
妻の死後も娘に憎まれ続けています。
そして彼は一人になって自分の人生を振り返り
自分が娘に父親らしい愛情を与えられなかったことを悔いています。
一方、隣に住む母親は、自分が虐待を受けて育てられたことで
自分の子供にも同じようにしか接することが出来ません。
本当に子供に対して愛情や関心が持てないのです。

子供に愛を与えられなかった老人と、愛を与えられずに育てられた子供が宿命のように出会い
そして青い空と白い雲の美しい景色を求めて旅に出ます。
そのなんとも不安定に見える二人の姿はとても痛々しく見えました。

でも、やがて無表情だった子供に笑顔がよみがえり
二人の間に絆が生まれる様子を見ていて、胸が熱くなりました。
例え短い間でも、愛されることを知り愛することを知った子供は
母親とは違った人生を歩むことが出来るかもしれない… そんな希望を感じました。

切ない余韻と共に
人間にとって親子の愛がどんなにかけがえの無いものかを考えさせられた1本です。


(061208)