野上照代氏の原作を映画化した作品です。
太平洋戦争の東京で必死に生きた一人の女性の姿が描かれていました。

昭和15年。ドイツ文学者で本の執筆をしている父べえ(坂東三津五郎)は今日もがっかりしていた。
出版しようとした著書が検閲により発禁になってしまったのだ。
父べえはかなり言葉を押さえたと思っていたのだが、検閲はそれをも許さなかった。
しばらくして、突然、夜中に警察がやって来て父べえを逮捕していってしまう。
罪状は治安維持法違反。父べえの思想が違反と判断されてしまったのだ。
母べえ(吉永小百合)は必死に長女・初子(志田未来)と次女・照美(佐藤未来)を抱きしめ
父べえは決して悪いことをした訳ではないと慰める。
しかし、最悪の場合は死刑にもなってしまうほどの重罪のため、父べえの帰ってくる見込みは無かった…

チラシにあるビジュアルは温かさいっぱいの雰囲気でしたけど、
実はそんな仲睦ましく温かい家庭を築いていた一家に戦争の波が押し寄せてくる哀しい物語でした。

愛する者を戦争に奪われつつも、優しさと愛する心を決して忘れなかった母べえ。
牢の中から家族を思いつつ手紙を必死に書いていた父べえ。
母べえを健気に支えようとする初子と、まだ事情が分からずに無邪気なままの照美。
そしてそんな一家を優しく見守る美しい義妹と、誠実に家族を支える夫の教え子。
戦争は重たく圧し掛かってきますけど、野上家に集まる人たちの心はみんな温かかったです。

でも一方で外の世界は冷たく不気味でした。
言論の自由は無く、おしゃれは贅沢だと罵られ、戦争が聖戦とされていた世界。
そんな中で普通に生きることの大変さが大げさではなく静かに淡々と描かれていて
切実な痛みが伝わって来ました。

人生を生き抜いた母べえの言葉と、父べえが手紙で送った妻への言葉に
二人の愛の深さを感じた1本です。

監督・脚本:山田洋次 出演:吉永小百合 浅野忠信 檀れい 坂東三津五郎 志田未来 佐藤未来
2007年製作
(071219)