ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)は偏屈でいつも不愉快そうな顔をしている。
最愛の妻のお葬式でも不似合いな服装の孫たちを睨みつけ、息子二人に厭な顔をされていた。
お葬式後、家に集まった客たちを眺めてうんざりしていたところ、隣家の少年が物を借りに来た。
元フォードの工場で働いていた彼なら絶対に持っているような道具だったが、
彼は若者に口悪く差別的な言葉を投げた挙句、我が家は葬式中だと追い返す。
そして間も無く客も息子と家族たちも帰宅し、家には一人ウォルトだけが残された…
イーストウッドの圧巻の演技とストーリーに魅入られながら、最後までじっと画面を見つめていました。
いつも口汚い言葉で相手を罵っているウォルト。
彼は人種差別の言葉は当たり前のように言うし、他人にかまわれるのも大嫌いです。
妻が自分の死後を心配して願いを託した神父にさえ、青二才相手に何が話せるかと突っぱねます。
愛しているのは亡くなった妻と犬のデイジー、そしてガレージにあるフォード社の車グラン・トリノだけ。
でも、曲がったことは大嫌いです。
そして、自分の信条を貫き、妻の死後は一人で生きていました。
ある時、彼は成り行きから隣家の少年タオと深く関わり合うようになります。
タオの一家はアジア系民族で、近所には彼と同じ民族が多く住んでいます。
初めは嫌々ながら付き合っていたウォルトでしたが、タオの姉で明るく口達者なスーと話すうちに
段々と心が通い合うようになってきます。
そんな彼が隣家の問題に関わったことで、問題はどんどん大きくなっていきます。
彼はもちろん良かれと思って行なったことなのですけれど、彼が敵を刺激したために
とうとう酷い事件へと発展してしまいます。
暴力には暴力の応酬で返されてしまったのです。
そして、考えた挙句に彼がとった選択は、彼の全てを懸けたひとつの行いでした。
ウォルトがここまで偏屈になったのは、戦争の体験が心に大きな影を落としているためです。
彼は自分の殺した人間たちのことをいつまでも忘れず、
その罪の意識を心に秘めながら生きてきました。
戦争から戻って家庭を持っても、その意識は途切れることなく、
息子たちにも愛想をつかれるほど心が通い合わないような人間になってしまいます。
そんな不器用でとても偏屈だけど真っ直ぐな心を持つ男が一番似合うのは、
やっぱりクリント・イーストウッドでした。
見終わった時、映画の余韻に浸りながら、もしタバコとお酒がOKな人だったら、
ビールを片手に一服したくなるだろうなあとしみじみと感じた1本です。
監督:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド ビー・ヴァン アーニー・ハー クリストファー・カーリー
2008年 アメリカ 原題:GRAN TORINO
(20090416)
追伸
この映画は試写会で観ました。公開は4月25日以降の予定です。