明智家の娘・倫子(つみきみほ)は平凡な家庭に育った真面目な小学校教師。
恋人の同僚の鎌田(手塚とおる)とは結婚を意識する仲になっており、最近は充実した幸せを感じていた。
サラリーマンの父(平泉成)と主婦の母(大谷直子)、かなり重い認知症の祖父(明智京蔵)との生活は
彼女にとって当たり前のような平和な暮らしだった。
ある日、身体が弱くなっていた祖父が亡くなった。
親類や近所の人々が集まった葬式の当日、突然、父の前に金貸し業者が現れる。
父に口汚く迫ってきたその男は、父へ貸した金の取立てに来たのだ。
そして彼女は、毎日会社へ出勤していると思っていた父が実は会社をクビになっていたことを知った…
祖父の死と借金、そして10年前に勘当された兄の帰郷によって
一気に崩壊していく家族の絆と人間のエゴが痛くて、何とも言えない気持ちになりました。
倫子はとても真面目で、嘘をついたり人を騙すという行為は大嫌いな性格です。
でも、実は彼女の兄(宮迫博之)は口八丁で人を騙したり、
簡単に金を手にするためなら何でもするような男です。
10年前に勘当された兄は、父に迫っていた取立て屋を持ち前の口の上手さで騙し
葬式の場をなんとか収めます。
そんな兄の姿は倫子には胡散臭く、倫子以外の人々には頼りになる男に見えました。
父のプライドと嘘。祖父の介護に追われる母の我慢の限界。
借金の表面化と祖父の死から、父と母はこれまでとは別人のような姿を倫子に見せ始めます。
あれだけ兄を嫌っていた父は、今では世渡りが上手い兄をすっかり信用してしまいます。
強い態度はなりを潜め、まるでプライドを無くしたように兄の言いなりになっていきます。
また、祖父が亡くなってたがが外れたようになってしまった母も言いたいことを言い始めます。
特に兄と二人きりになると、一緒にいると楽しい兄にずっと家にいてくれとか
真面目な倫子は堅苦しいなど、はしゃぐように明るいテンションで話します。
そんな父母の姿はこれまで倫子が一緒に暮らしてきた二人とは全く違っていて
倫子はかなりショックを受けてしまいます。
家族や恋人の豹変を見た後の倫子と兄の会話は何とも言えなかったです。
きっと二人は奥底では家族の絆を感じていたのかも知れません。
でも、倫子の真面目さはどうしても兄を許すことが出来ません。
そんな彼女の気持ちは分かるなあと思いつつも、
彼女に“怖い子”と言い放つ母の言葉も分かるなあと複雑な気持ちのまま画面を観ていました。
それにしても、この作品も役者が揃ってますね~
口の上手い兄の宮迫博之さんも、生真面目なつみきみほさんも、
そして父母役の平泉成さんと大谷直子さんも本当に上手くて
最初はボケッとTVの前で観ていたのに、どんどん作品に引き込まれていきました。
ラストにその兄嫌いを作った子供の頃の体験の真実が明らかになった時、
倫子の受けたショックの大きさに思わずため息をついてしまった1本です。
監督:西川美和 出演:宮迫博之 つみきみほ 平泉成 大谷直子 手塚とおる 笑福亭松之助
2003年 日本
(20090702)