秀雄(板尾創路)が仕事から帰宅すると、家では空気人形がぽつんと待っている。
彼は空気人形を相手に楽しくお喋りし、一緒にお風呂に入り、ベッドで愛し、
翌朝になると「行って来ます」と挨拶して仕事へと出かけた。
彼はいつも空気人形に「おまえはいつも綺麗やなあ」と嬉しそうに声をかけていた。
そして、ある朝、秀雄がいつものように空気人形に声をかけてから出かけた後、
空気人形はぎこちなく自分で動き始めた。
アパートの窓から街の風景を見ながら、彼女(ペ・ドゥナ)がたどたどしく発した言葉は“綺麗”だった。
その横顔はとても嬉しそうだった…
空気人形の見つけた世界は、歓びと刹那さと欲望に溢れていました。
心に空虚を抱えて孤独に生きている人々の群像劇です。
彼らは発展を続ける東京の片隅に昔のまま取り残されたような、小さな町で暮らしています。
懐かしい雰囲気で、でも少しだけ病んでいるような行き場の無い焦燥感の中で
彼らは自分の生き甲斐が見つからないまま、日々を送っています。
そんな町の中で、心を持った空気人形が動き始めます。
生まれたての無垢な魂を抱えた空気人形は、初めて見る外の世界をワクワクしながら歩き回ります。
そして、ビデオレンタル店の店員・純一(ARATA)に恋をしました。
考えれば考えるほど、この作品は観た者によって印象が変わる物語だなと感じました。
私が観終わった時、最初に感じたのは“人魚姫”。
愛に全てを捧げる空気人形の行動は、あの童話の主人公のように潔く感じました。
でも、空気人形の初恋がとても可愛い反面、こんなに純真な心を持っている彼女が
愛を強要される立場の空気人形というのはかなり切ないです。
恋の素晴らしさを知ると同時に、彼女は諦めの心も知ってしまいます。
それは生きるために自分の時間と労力を売り渡す大人そのものです。
彼女はそんな矛盾の中でも、ひたすら愛に向かって進んで行きました。
それにしても、ペ・ドゥナの演技はキュートですね~
彼女だからこそ、この作品がこんなにも美しく出来上がったのだなあと納得でした。
赤ちゃんのような心を全身で表している彼女はとてもキラキラしていました。
そして、彼女が恋に歓びを感じている姿にはドキドキしてしまいました(^^ゞ
今回は空気人形に目を奪われてしまいましたけど、少しずつ登場する人々の姿も印象的でした。
いつかもう一度観て、彼らの心も考えてみたいなあとちょっと思った1本です。
監督:是枝裕和 出演:ペ・ドゥナ ARATA 板尾創路 高橋昌也 岩松了 オダギリジョー 奈良木未羽 丸山智己 星野真里 柄本佑 寺島進 富司純子
2009年 日本
(20091003)