一人の若い女性の部屋から始まる物語です。
部屋には窓から光が差し込み、スマホの着信も響いているのに、彼女は起きる気配がありません。
床に上には脱ぎ散らかした洋服があり、ゴミ箱には妊婦へのパンフレットが入っていて、
テーブルの上には薬を飲み散らかした跡もあります。
その女性・千秋(村川絵梨)には何か深い事情がありそうです。
ようやくスマホに手を伸ばしたところ、電話の相手は千秋の母(大塚寧々)でした。
一人暮らしの長い娘に久々にかけて来た母の電話は、二人が暮らしたことのある飛騨の知人の死の知らせでした。
千秋が小学生だった頃に父が亡くなり、しばらく飛騨へ引っ越していた時期に
とてもお世話になったポプラ荘の大家のおばあさん(中村玉緒)が亡くなったのです。
その訃報を聞いた千秋は、お葬式に出席すると返事をして出かける準備を始めます。
彼女にはどうしても確かめたいことがあったのです。
父を亡くした喪失感を抱えたままだった時期に、おばあさんは彼女に約束したことがありました。
それは、自分が死んだら天国の彼女のお父さんへ手紙を持って行ってあげるという約束でした。
それにしても、じわじわと心にくる物語でした。
父の突然の死を受け止められない母と、そんな母をひたすら気遣っている小学生の千秋。
千秋はぼんやりしている母は頼れないと思い、自分で出来ることは全部自分でしなくてはと必死になります。
でも、転校した心労も重なった上に頑張り過ぎたためか、登校途中に熱を出して倒れてしまいます。
そんな彼女の世話をしてくれたのが、大家のおばあさんでした。
出会いはとても怖そうだったおばあさんが、やがて笑顔を見せて千秋を可愛がってくれるようになります。
二人には大切な秘密も出来ます。おばあさんは死んだ人への手紙を届けてくれるというのです。
亡くなった父へ手紙を書き始めた千秋は少しずつ笑顔をみせるようになります。
そして、大人になった千秋が自暴自棄になった時に彼女を救うように手渡されたのも、
おばあさんが預っていた手紙でした。
何気ない日常でも、後から思い浮かべるととても輝いているものですよね。
そんな想い出を心に浮かべた時に心が温かくなるのは、
その時に出会った人の温かい想いが自分に届いていたからだろうなと思います。
そして、そんな温かい想いが千秋にもきっと届いたのかも知れないと感じました。
帰り道、電車に乗りながら、そんなことをつらつらと考えていた1本です。
監督:大森研一 出演:本田望結 中村玉緒 大塚寧々 村川絵梨 藤田朋子
2015年 日本
(20150909)
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公式サイトはこちらへ http://popura-aki.com/追伸
この映画は試写会で観ました。公開は9月19日以降の予定です。