サミア(ニスリン・エラディ)は大きなお腹を抱えながら、仕事を求めて彷徨っていました。
どんなに美容師としての技術があってきちんと働いてきた経歴があっても、
妊娠した未婚女性と思われたら終わりなのです。
住む家も無い状態で出産まで間近と思われる若い女性に、街の人々は厳しい視線しか向けませんでした。
たくさんのドアを叩きましたが、すべて断られます。
最後に小さなパン屋を営むアブラ(ルブナ・アザバル)のドアを叩いて断られると、
疲れ切ったサミアは向かいの家の軒先に座り込みました。
断りはしたものの、アブラはサミアの様子が気になっていました。
アブラも夫を亡くした後、シングルマザーとして幼い娘を育てている母親なのです。
夜になっても向かいの軒先でぼんやりと座り込んでいるサミアを見かねたアブラは、
意を決して外へ出るとサミアを家へ連れてきます。
そして、厳しい表情のまま彼女がソファーで眠れるような支度をしながら、
2~3日したら出ていくようにと告げました。
それにしても、社会の中で女性が一人で生きることの難しさを改めて感じさせる作品でした。
知らなかったのですが、モロッコでは未婚の女性の妊娠や人工中絶は違法だったのですね。
男性は逃げてしまえば終わりかも知れませんが、女性はその後の全てを背負わなくてはならない。
そして、罪だと思われているからこそ、助けようとする人もいません。
やっぱり理不尽だなあと感じてしまいました。
やがて、サミアの心遣いと友情を感じたアブラは次第にサミアに心を開いていきます。
時には大きな喧嘩をしながらも、最後までサミアに寄り添おうとするアブラの優しさにほっとしました。
サミアは子供のために、生まれてすぐに養子に出そうと心に決めています。
生まれてくる子供は何も悪くはないのに、罪の子と言われながら生きるのはあまりにも可哀想だからです。
彼女は生まれてきた子供に名前を付けることも触ることも拒否します。
それでも、お腹を空かせて泣いている我が子をそのままにすることは出来ません。
次第にサミアが体現していく、生まれて来た子供への母の愛の深さには胸を打たれました。
彼女のこのシーンが観られただけでも、観て良かったと感じました。
観終わった後も色々と考えさせられる作品でした。
きっと厳しいことも多いかも知れませんけど、この女性たちには強く生きて欲しいなと感じた1本です。
監督:マリヤム・トゥザニ 出演:ルブナ・アザバル ニスリン・エラディ
2021年 モロッコ 原題:ADAM
(20210818)
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