タイの国民的“ラナート”奏者ソーンの伝記をもとにしたストーリー。

19世紀末の伝統文化が尊重され、美しい伝統音楽に満ちていた時代と
1930年代の近代化という名のもとに伝統文化が禁止され
楽器が破棄されていった時代を比較しながら、
一人の男の人生と文化の終焉を描いていました。

なんと言っても、伝統楽器ラナートを中心とした楽団の音楽が美しかったです!
心をそのままにうつしだす音は素朴でとても繊細です。
一人一人の技術と仲間同士の調和を大切にした音楽で
その奏でられる音階は、ちょっと不思議な感じがしました。

中でも圧巻なのは若き日のソーンと、当時のラナートの第一人者クンインとの対決です。
息ををつかせないほどの音が縦横無尽に駆け巡り、聴く者を圧倒します。
特にクンインを演じたのは現役のラナート奏者ナロンリット・トーサガーで
その技術には目を見張りました。

“指導者を信ずれば、国家の危機を乗り越えられる”というスローガンのもとに
伝統文化を排除しようとする政治は、大きな戦争下だったからですけど、
現代でも、どこかでありそうだなあとか
観終わった後にいろいろ考えさせられる映画でした。


(051216)