現実の痛さが胸にどーんと来る作品でした。

2002年に実際に起こった事件を描いた作品です。
パキスタンで取材中のアメリカ人ジャーナリスト、ダニエル・パール氏が誘拐され殺されてしまった事件を
妻マリアンヌさんの視点から見つめていました。

映画は事件の発生前日から終わりまでを、実際のニュース映像も交えてドキュメンタリー風に映されています。
製作の際に当事者にインタビューを重ね、ロケも実際に事件に関わりのあった場所で行なったそうです。
物語は事件がどのように計画され、どのように複雑化され、どのように実行されて行ったかを
マリアンヌさんの姿を中心に進んでいきます。
時々、マリアンヌさんの思い返す夫との思い出や事件との関連事項がカットインされるのも含めて
まるで『ユナイテッド93』を観た時のような、自分もそこにいるような感覚に陥りました。

マリアンヌさんもフランスのラジオ局に勤務するジャーナリストで
夫の持つジャーナリズムの精神を理解し、その心に惹かれて夫婦になったと語っています。
その精神の根本にあるのは、鏡のように真実を伝えることです。
主観が入るのではなく、主義に歪められることも無い、ありのままの事実を伝えることです。
これはダニエル氏がインタビュアーに自分の記事を読ませた上で
インタビューに応じてくれるか決定してもらっていることにも表れていると思います。

しかし、映画の中では報道者たちの違う面が多く出てきます。
パパラッチのようにカメラを向ける大勢の記者たち。
テレビ番組のインタビューで、あまりにも惨い質問を投げかける司会者。
そして、一部の強硬派新聞に偏った報道によりCIAやモサドやインドと繋がりがあるなどと事実を歪められ、
テロリストに実際の自分とは全く真逆の人間として囚われてしまったダニエル氏の死。
政治とか宗教とかでは片付けられないような、数々の歪みによって起きた事件なのだなと感じました。

それにしても、主演のマリアンヌさんを演じたアンジェリーナ・ジョリーは素晴らしかったです。
主人公の持つ芯の強さと愛の深さを静かに、そして繊細に演じていました。
そして現実的に厳しい状況に置かれながらも厚い友情で主人公を支える友人や
必死にダニエル氏の命を助けようと捜査を続けた捜査員やジャーナリストたちを演じた役者さんたちも
緊張感と焦燥感と深い哀しみを伝えてくれました。

マイティ・ハート=寛容な心 の偉大さと強さを感じた1本です。

監督:マイケル・ウィンターボトム 出演:アンジェリーナ・ジョリー ダン・ファターマン アーチー・パンジャビ
2007年製作 アメリカ 原題:A MIGHTY HEART
(071124)