冬が近付いていた季節の中で、幼い息子エンゾ(マックス・ベセット・ドゥ・マルグレーヴ)と
母ニーナ(ジュディット・シュムラ)は行く当ても無く彷徨っていた。
若くしてエンゾを生んだニーナは親から勘当の身で、頼れる人は誰もいない。
仕事も無く街角で凍えながらエンゾと寄り添って眠る日々を送っていた。
ある日、ニーナはベンチに置かれていた新聞を食い入るように見ていた。
そこには“失業は宿命ではない”という謳い文句で
働く意志があれば職は得られるという内容の記事が載っていたのだ。
ホームレスの支援団体に頼っても一晩の宿が得られるだけで解決にはならない。
ニーナはその新聞を荷物に加えると、駅へ向かって歩き出した。
人に教えて貰った通りの道を歩いていたつもりだったが、いつの間にか森へ彷徨いこむ。
そして森で掘立小屋暮らしをしていた孤独な男ダミアン(ギョーム・ドパルデュー)と出会った…
社会からはみ出してしまった男女が一人の少年を巡って織り成す物語です。
観終わった時、結局エンゾ少年はその後どうするのだろうなあと考えてしまいました。
エンゾの母ニーナは10代でエンゾを産み、今は23歳。
彼女は両親や警察からダメ人間と言われ、希望も気力も無く生きてきました。
でも、新聞記事の言葉に感銘を受けた彼女は、一度その記事を書いた女性に会いたいと考えます。
ただし、一人立ちして暮らせるようになるまでは、幼いエンゾを連れていくのは難しいと悩みます。
彼女は偶然に出会ったダミアンに書置きを残してエンゾを置いていってしまいます。
その後のダミアンの心境の変化が面白いです。
初めは荷物が増えたとばかりに怒り、エンゾを手放そうとします。
でもエンゾが一人でダミアンの元へ戻ってくると、彼は嫌々ながらもエンゾの世話を始めます。
素直に慕ってくるエンゾと暮らしているうちに、次第にダミアンはエンゾを我が子のように愛し始めます。
そして、エンゾのために社会へ戻ろうと決心しました。
それにしてもエンゾを演じたマックスは本当に天使のように可愛かったです。
あのつぶらな瞳でじっと見つめられたら、どんなに心が荒んだ男でも愛しく思ってしまいますね。
ダミアンを演じたギョーム・ドパルデューの無骨な態度とは対照的な優しい瞳も印象的でした。
それだけに、エンゾに安定した生活を与えた後のダミアンの行動は哀しかったです。
また、エンゾと一緒に暮らせるように独り立ちするため、必死に頑張った母ニーナの気持ちも納得でした。
社会で上手く生きることが出来ずに、自分を手放して去っていく大人たちを前に、
エンゾは何を考え大人になっていくのかなあとしみじみ思いました。
観終わった時、エンゾが本当に幸せになれるのは母の腕の中なのだろうかと考えさせられた1本です。
監督:ピエール・ショレール 出演:ギョーム・ドパルデュー マックス・ベセット・ドゥ・マルグレーヴ ジュディット・シュムラ
2008年 フランス 原題:VERSAILLES
(20090601)