フランス生まれの大道芸人フィリップ・プティと彼の仲間たちが成し遂げた綱渡り。
それは10代の頃にフィリップが思い描いた夢の集大成です。
彼はツインタワーでの綱渡りを45分も楽しみます。
それは何ヶ月もかけて計画を練り、3日間かけて準備し、
一晩かけてワイヤーを張った上での挑戦でした。
計画も準備もワイヤーを張る作業もフィリップ一人では出来ません。
それは、この綱渡りが違法だと認識した上でも協力を惜しまなかった友人たちの努力の賜物です。
ビルの警備員の目を盗むための計画や実行したインタビューは聞いているだけで緊張しました。
いくら警備の目の届きにくかった時代とは言え、人目を誤魔化しながらビルに侵入するのは大変です。
偽造IDや嘘の書類など、ほとんどスパイ大作戦のようでした~
また、当日フィリップが多く繰り出してしまったワイヤーを
友人たちが何時間もかけて懸命に引き寄せる逸話などは
綱渡りをした主人公以上に大変な作業だったろうなあと感じました。
この綱渡りでフィリップは一躍ヒーローになります。
彼はセレブのような人気者になり、逮捕されて裁判にかけられても無罪になります。
まあ違法とは言え、世間に明るい話題を提供したのですから、判事もOKと思ったのかも知れません。
ただ、このツインタワーでの綱渡りはフィリップと彼の友人たちの人生を大きく変えてしまいました。
フィリップをセレブにした出来事の影で、彼に協力した友人は国外退去の処分を受けます。
これはあまりにも厳しい差です。
この次はどんな挑戦をするかと楽しく語るフィリップを見ながら、
友人は彼との友情が消えてしまったことを感じます。
また、フィリップはこれまで彼が愛を捧げてきた恋人とも別れることになります。
なにせフィリップは綱渡りを成功させた歓びから、グルービーみたいな女の子と遊んでしまうのです。
それを知ってか知らずか、恋人はフィリップとの繋がりが消えたことを感じます。
「これで愛が終わった。でもこれで良かったのよ」と語る彼女の表情は懐かしい過去を語るようでした。
栄光の笑顔とは裏腹にフィリップはこれまで大切にしていた絆を失ってしまいます。
それでも、彼はこの綱渡りで挑戦することの大きな歓びを感じ取ることが出来ました。
後悔よりも、次への夢が膨らみます。
そんな自分への自信に満ちた姿は、やっぱり世界にただひとりのヒーローのようでした。
きっとこの人にとって高い場所は、いつまでも挑戦し続ける登山家の
険しい山のようなものだろうなあとしみじみ思った1本です。
監督:ジェームズ・マーシュ 出演:フィリップ・プティ ジャン=ルイ・ブロンデュー アニー・アリックス
2008年 イギリス 原題:MAN ON WIRE
(20090729)