1997年9月。卒業式の朝、タン(チャン・チエ)は部屋の中でこの高校生活を思い返していた。
親友イェン(リディアン・ヴォーン)や仲間たちと共に過ごした日々は、
彼の心の中では痛みを伴う思い出として残っていた。
例えば、みんなでプロ野球を観戦していた時のこと。
審判の誤審から起こった騒ぎの中、制服で観戦していた彼らは学校に知られて警告を受けてしまう。
予想以上の厳しい対応に落ち込んだ彼らだったが、そんな時、彼らを楽しませてくれるのはイェンだ。
イェンはポケベルを鳴らして夜中にみんなを集めると、みんなを学校のプールへと連れて行った。
プールサイドで一人一人にビールを渡して気持ちよくはしゃぎ始めた時、
イェンは突然全裸になってプールへと飛び込んだ。
一瞬、あっけに取られたタンたちだったが、笑いながら次々とプールへ飛び込み、
最後には全員で笑いあっていた。
そんな心から楽しめる仲の良い仲間たちだったが、小さな気持ちの掛け違いがきっかけとなり、
彼らの間に少しずつ気持ちのズレが生まれ始めてしまった…
誰もが通り過ぎる高校時代のひと時を、少しずつ大人へと変わっていく少年たちの姿を通して
静かに描き出していました。
イェンは太陽のように輝いていて仲間に明るい笑顔をもたらす少年です。
彼が中心のグループは学校には不良グループと思われていますけど、
彼らにとってはちょっと遊びながら息抜きをしているだけです。
そのかけがえの無い仲間たちは、信頼と共に強い絆で結ばれているはずでした。
でも、プレイボーイのイェンを庇ったタンが殴られるという事件をきっかけに、
少しずつ彼らがバラバラになっていきます。
恋と友情。信頼と裏切り。
そして一言では言い表せないような深い想いが青春という名のもとに
彼らの心に生まれていきました。
それにしても、時代背景が興味深かったです。
ストーリーの中に時々織り込まれているニュース映像は、当時の台湾野球界を揺るがした
野球賭博のことを伝えています。
イェンたちが夢中になって見ていた野球が黒社会によって汚されていく状況は
少年たちの心に大人の社会への不信感を与え、夢を壊していきました。
そんな状況に呼応するように少年たちの行動も少しずつ狂い、そして悲劇へと向かって行きます。
野球賭博事件は当時の少年たちに本当に深い影響を与えたのだろうなあとちょっと考えてしまいました。
ラストに見せたタンの笑顔に、ちょっとだけほっとした気持ちになった1本です。
監督:トム・リン 出演:リディアン・ヴォーン チャン・チエ ジェニファー・チュウ ワン・ポーチエ リン・チータイ シェン・ウェイニエン チウ・イーチェン リー・ユエチェン チー・ペイホイ
2008年 台湾 原題:九降風/WINDS OF SEPTEMBER
(20090908)