1960年代初頭のイスラエルでは、戦争の悲惨な体験から少しずつ元気を取り戻していた。
子供たちは戦争を知らない世代になっている。
小学生のアハロン(ロイ・エルスベルグ)は痴呆症の祖母、身体を動かす仕事が好きな働き者の父、
いつも口煩くてウンザリする母、年頃の姉の5人家族でアパートに住んでいた。
彼は小柄で芸術に惹かれるような繊細な心を持っていた。肉体派の父とは正反対だ。
そんなアハロンに母はいつもしっかり食べて大きくなれと叱っていた。
アハロンはそんな家族を愛している反面、うんざりしているところもあった。
ある日、同じアパートに一人暮らししている女性がアハロンの父に部屋の改修を依頼してきた。
嫉妬深い母は若くて綺麗でピアノを弾くような上品な女性と父が近付くのを嫌がっていたが、
女性の提示した金に惹かれて改修を承諾してしまう。
だが、改修は次々と追加され、その工事はいつまでたっても終わらなかった…
思春期に差し掛かった少年の哀しみが静かに伝わって来ました。
成長を止めてしまった少年アハロンの物語です。
彼は元々は普通の男の子です。
親友と遊び、可愛い女の子には心を惹かれながら、毎日を楽しく過ごしていました。
ある日、親友と秘密の合図を決めたアハロンは、その合図を見たら助け合おうと誓います。
まるでちょっとした悪戯のような小さな合図は、大人たちの目には見つからなくても
子供の視線で見ると分かるものばかりでした。
子供たちは大人になる前に、グループに入ります。
知識不足でそれがどんなものかよく分からなかったのですけど、
何となくボーイスカウト&ガールスカウトのようなもののようです。
そのグループに入るためのテストみたいな場で、アハロンは失敗をしてしまいます。
一度は成功したのに、悪戯心でもう一度チャレンジしようとして失敗してしまったのです。
その失敗は父を失望させます。
そして、親友や好きな女の子とも次第に疎遠になってしまいました。
彼は父親も母親も苦手になりました。
もともと口を開けばガミガミ言っている母は家族中の誰もが苦手なのですけど、
最近は父も心が外へ向かっているようで、家族の食卓がギクシャクしているのです。
毎日のように父がアパートの改修と称して女性の家に通っている姿に母はイラつき、
アハロンは大人の嫌らしさを感じます。
そして彼は心から大人になりたくないと切望し、成長を止めてしまいました。
それにしても、いろいろなことを考えさせられる物語でした。
元々は原作本があるそうで、著者の実体験をモチーフにしているそうです。
少年だからこそ、真っ直ぐな視線で捉えてしまった大人の姿や彼自身の生み出した孤独を切ない気持ちで観ていました。
また、両親が子供の頃に戦争で親を早くに亡くしていることや
父が自分では決して語ろうとしない悲惨な体験をしていることが背景にあるのを感じて何とも言えない気持ちになりました。
途中に登場する「アメリ」のような秘密の合図が可愛くて、だからこそラストは切なかったです。
今後、この少年はどんな人間になっていくのかなあとしばらく考えてしまった1本です。
監督:ニル・ベルグマン 出演:ロイ・エルスベルグ オルリ・ジルベルシャッツ イェフダ・アルマゴール エヴリン・カプルン ヤエル・スゲレスキー リフカ・グル
2010年 イスラエル 原題:Intimate Grammar/ Hadikduk Hapnimi
(20101025)
追伸
この映画は東京国際映画祭で観ました。公開予定は未定です。