一人の男(エルダル・ベシクチオール)が荷物を乗せたロバと共に森へやってきた。
彼は何かを探すように辺りを見回しながらぐるぐる歩くと、やがて1本の木の上に目を留める。
そして、ロバの荷物から重しの付いた長いロープを出すと、狙いを定めて木の上に引っかけた。
十分に重さに耐えられるか試しに何度か引っ張った後、おもむろにロープを伝って木に登り始めた。
だが、10メートルほど登って来たところで、ロープが掛っていた枝が、ミシミシと音を立て始める。
ガクッとロープが緩んで緊張に顔をゆがませた男は、木に垂直の状態で身動きが取れなくなった…
森の夢はどんなだろうかと知りたくなりました。
トルコの森と共に暮らす親子の物語です。
父は蜂蜜を採って生計を立てています。
この地方では、高い木の上に巣箱を取り付けて蜂を集めているようです。
幼い息子ユスフ(ボラ・アルタシュ)はそんな父と一緒にいる時間が大好きです。
父は素朴な生活を送りながらも大らかな心とユーモアを持っている人で、
ユスフと共にいる時間を大切にしています。
朝食の時間にユスフが夢を見たと話し始めると、夢の話は誰かに聞こえないように話さなくてはと言います。
でも、小さな声なら大丈夫と言って、息子に耳を寄せるのです。
その姿は本当に仲が良くて楽しそうに見えました。
そんな父が蜂蜜を採りに行ったまま帰ってこなくなります。
母は心配を外に出さないようにしていますけど、やはり不安は6歳のユスフにも伝わっていきます。
もともと話すのが苦手だったユスフは、学校の授業でも口をきかなくなります。
彼は緊張すると言葉が詰まってしまう癖があり、授業で教科書を上手く読むと貰えるバッチが欲しかったのに
どうしても読むことができませんでした。
透明の入れ物に入っているバッチはどんどん少なくなっていきます。
彼は授業中にも入れ物から目が離せなくなります。
そして時は過ぎ、地域あげてのお祭の日にも、父が姿を現すことはありませんでした。
それにしても、映像のきれいな作品でした。
全体的には説明が少なくて、最初は何が起きているのだろうかと戸惑ったりもしましたけど、
ユスフが登場すると、彼の視点と共に物語の中に自然と入って行きました。
彼の静かな瞳に映る世界は、寂しくてちょっと切ないですけど、好奇心と優しさもあります。
全体的に考えるというよりは感じながら観る雰囲気の作品で、森の空気がスクリーンから漂ってくるようでした。
そして、その中で自然と共に暮らしているユスフの姿は父への愛であふれていました。
現代でもこういう世界があるのだなと改めて感じられる作品でした。
観終わった時、家のベッドにワープして、森の夢を見たいなあとちょっと思った1本です。
監督:セミフ・カプランオール 出演:ボラ・アルタシュ エルダル・ベシクチオール トゥリン・オゼン
2010年 トルコ/ドイツ 原題:BAL
(20110727)
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公式サイトはこちらへ http://www.alcine-terran.com/honey/