ガザを飛ぶブタ

今回の東京国際映画祭で観客賞を受賞した作品です。
観客賞の授賞式＆上映会に応募したら当たったのでチャレンジしてきました。
切実な現実をユーモアたっぷりに伝えてくれる、ちょっとおとぎ話のような心温まる物語でした。

イスラエルとの緊張が絶えないガザ地区に住むジャファール（サッソン・ガーベイ）は
漁業を生業として生活していた。
だが、近隣の魚は獲り尽くされてしまい、今では船を出してもろくな魚は獲れなかった。
生活用品を買い付けている店のツケも溜まって来て、そろそろ生計が危うくなりつつも
海に出るしかない彼にはお手上げの状態だった。
ある日、彼がいつもの通り網を上げていると、何かが網にかかっていた。
早速、網を解こうとすると、何とそれは生きている豚だった。
イスラム教では不浄な生き物とされている豚を目にしたジャファールは慌てて豚を船室に閉じ込める。
そして、この豚をどうしたら良いのか途方に暮れてしまった…

ジャファールの行動が何とも可笑しかったです～

豚を入手してしまったパレスチナ人の物語です。
すっかり忘れていたのですけど、イスラム教では豚は禁忌の動物だったのですね。
豚を目にした時のジャファールの驚きには、観ている方も驚かされました(^^ゞ
豚が土に触れるだけでも国が汚れるというほどの生き物だけに、船から揚げることも
増してや連れ歩くことも出来ません。
友人に相談すると、撃ち殺してしまえと言って銃を渡されてしまう始末。
でも、彼には殺すことも出来ません。

そんな時、彼は友人の言葉からあるヒントをもらいます。
ユダヤ人は豚を輸出用に飼育しているというのです。
もしかしたら、豚を買い取って貰えるかもしれないと考えた彼は、勇気を出してユダヤ人居住区に近付きます。
金網越しに呼び掛けると、一人の若い女性が振り向いてくれました。
彼女から、ちょうど飼育小屋が火事になって雄の豚が全滅してしまったという話を聞いた彼は
では買い取って欲しいと喜んで交渉しますけど、彼女はパレスチナの豚は買えないと言い放ちます。
そして、彼は彼女に種付け用の精子を持って来いと言われ、また途方に暮れてしまいました。

それにしても、何だか面白い雰囲気の作品でした。
貧しくて生活にも困るような夫婦で、しかも家の屋上には監視のための兵士が乗り込んでいます。
それでも、すべてを受け入れるように日々は静かに動いていきます。
彼らの姿を観ているうちに、パレスチナとイスラエルとの交流の難しさが少しずつ理解できていきました。
また、そんな主人公に『迷子の警察音楽隊』でも存在感を漂わせていたサッソン・ガーベイはぴったりで、
彼がいたからこそ、こんなにいい雰囲気の作品になったのだろうなあと感じました(^^)

彼らにとってあり得ない豚の存在が、ジャファールの運命と心を大きく変えていきました。
その変化はとても素敵で優しい希望を感じさせてくれました。
こんなに優しい物語が観客賞をとるなんて、東京国際映画祭らしいなあと感じた１本です。



監督：シルヴァン・エスティバル　出演：サッソン・ガーベイ　バヤ・ベラル　ミリアム・テカイア　ウルリッヒ・トゥクル
2010年　フランス/ベルギー　原題：When Pigs Have Wing/Le Cochon de Gaza
（20111030）

追伸
この映画は第24回東京国際映画祭で観ました。公開予定は未定です。