今年のカンヌ映画祭のパルムドール受賞作品です。
その受賞にふさわしい重さを持った物語でした。

1920年。アイルランドはイギリスの支配と暴力にさらされ、人々は疲弊しきっていた。
医師を志していた青年デミアンは努力が実り、ロンドンで評判の病院への就職が決まった。
旅立ちを数日後に控えた日、一緒にスポーツを楽しんだ友人たちと共に
長年お世話になっていた友人一家へと挨拶に行ったところ、
突然、武器を持ったイギリス軍がやってきた。
彼らは銃を向けながら若者たちを壁にそって並べて、名前や職業などの尋問を始めた。
若者のひとりが英語名ではなくアイルランド名で答えたために反抗的だと拷問され
そのまま殺されてしまう。
失意の中、デミアンは旅立とうと駅に向かうが、駅でも軍による暴力が横行しているのを目にし、
ついに医師への夢を捨てて、イギリス支配からの独立を誓う仲間のもとへと向かった…

イギリスとアイルランドの確執については、もちろん知識としてはありましたが
映像ではっきりと見せ付けられると、その認識の甘さを感じさせられます。
観終わった時、正直かなりのショックを受けました。

普通に暮らしている市民の生活までをも脅かされていた圧制の様子には
これでは深い恨みも生まれてしまうだろうなあと、ため息をついてしまいました。
そして、長い歴史が産んだ差別意識は、
同じ人間同士でこうも相手を虐げることが出来るのか…と哀しくなりました。

人間が人間を武力で支配すること悲惨さと、学ぶことなく過ちを繰り返す愚かしさ。
暴力と死からは何も生まれては来ないと判っているのに、
信頼しあっている兄弟さえも引き裂いてしまうなんて、あってはならないものなのに…

兄を想う主人公の願いが、いつしか和解と平和をもたらすきっかけになって欲しいなあと
願ってやまなかった1本です。


(061114)